本研究では、リゾチームをモデル蛋白質として用い、酵母発現系で意図的に翻訳後修飾を利用して、グリコシル化、リポフィル化のための分子設計を行い、耐熱性、乳化性などの物性機能改変、抗菌性などの生理機能の改変、アレルゲン性の低減化などを試み、食品受容性及び健康保全性を備えた安全な食品蛋白質の開発を図るための分子設計基盤を確立することを目的とした。初年度では酵母発現系により、リゾチームcDNAにAsn-X-Thr/SerのN-型糖鎖付加配列を導入し、糖鎖長の異なるオリゴまたはポリマンノシル化リゾチームを作製し、糖鎖長の機能に及ぼす影響、特にアレルゲン性低減化に及ぼす影響を調べ、アレルゲン性が著しく低減化できることを明らかにした。また、酵母S.cerevisiaeで発現させるとマンノースが約300残基程度結合したポリマンノシル化リゾチームが得られるが、酵母Pichia Pastorisで発現させると他の真核生物と同様のマンノースが9ー12残基結合したオリゴマンノシル化リゾチームが得られることが明らかになった。次年度はリゾチームのN--末端側にミリスチル化シグナル配列を導入し、リポフィル化を行い、物性改変、抗菌機能の改変を図った。リゾチームのNー末端にミリスチル化シグナル配列(Met^1-Gly^2-X^3-X^4-X^5-Ser/Thr^6-)を導入するようにcDNAを改造し、酵母発現ベクターに組込み、形質転換した酵母を用いて大量に培養し、リポフィル化リゾチームを調製した。酵母にはN-ミリスチルトランスフェラーゼが存在するために、ミリスチル化リゾチームの発現がが期待できるが、小胞体に移行しないので、サイトゾルでの蛋白質合成中にミリスチル化されたリゾチームが得られたが、フォールディングがうまくいかず、抗菌活性の改変は成功しなかった。現在、フォールディングがうまくいくシステムを検討している。
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