本研究の目的は木造家屋などの木材構造部材の微生物劣化、特にシュウ酸を多量に分泌する銅耐性木材腐朽菌(オオウズラタケなど)の代謝機能を解析することによって、その木材腐朽を生化学的レベルで制御しようとするものである。初年度では、シュウ酸合成酵素の一つであるグリオキシレートデヒドロゲナーゼを精製して、その機能を解析したところ、本酵素はフラビシモノヌクレオチドとヘムを活性中心にもち電子伝達機能をもつことが解明された。その酵素機能を阻害する化合物を10種類について調べたところ、ヘム結合性のシアン化物とかアジ化ナトリウムは阻害活性がなく、硫酸銅、p-クロロマーキュリー安息香酸及びベンゾキノンが有効であることが分かった。しかし、これらの阻害剤だけでは、十分な木材腐朽を制御することは困難である事が分かったので更にべつの角度から研究する事が必要となった。そこで、シュウ酸の前駆物質であるグリオキシル酸が生成する代謝経路について実験を行った。TCA回路に含まれるイソクエン酸リアーゼの酵素活性を調べると、かなり高い活性が検出されたので、シュウ酸はイソクエン酸から生成するグリオキシル酸を経て合成されることが分かった。興味深いことに、木材腐朽菌類からイソクエン酸リアーゼを分離抽出し酵素の特性を解明した研究例は未報告である。これらの酵素はミトコンドリア内に存在する電子伝達を伴う呼吸酵素系と連動している可能性があり今後酵素の局在性を明らかにして機能解析を進めることにしている。
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