研究概要 |
本研究の目的は木造家屋などの木材構造部材の微生物劣化、特にシュウ酸を多量に分泌する銅耐性木材腐朽菌(オオウズラタケなど)の代謝機能を解析することによって、その木材腐朽を生化学的レベルで制御しようとするものである。本年度は、シュウ酸の前駆物質であるグリオキシル酸とオキサロ酢酸の代謝が生理学的に重要なグリオキシル酸回路とTCA回路などの複合酵素系に含まれる可能性があるので、リンゴ酸合成酵素など重要酵素10種類について活性検出を試みた。その結果、重要酵素活性のすべてを検出することに成功した。また、オオウズラタケのTCA回路は動物や植物の回路とは異なり、新規なshort-cut型TCA回路が存在することが発見された。さらに、従来の学説とは対照的に新知見としてグリオキシル酸回路酵素がグルコース抑制を全く受けずに機能し、シュウ酸合成とエネルギー獲得と菌体生育と平行して活性化することも証明された。これらの2つの回路と共役する第3のシュウ酸合成回路を発見し、OAA回路と命名した。即ち、Oxaloacetate,Acetate-Acetyl CoA Cycleによりグリオキシル酸がリンゴ酸を経て、シュウ酸に酸化され、2分子のATPが生産されるエネルギー生成機構を発見するに至った。現在、Natureなどの国際雑誌に投稿準備中である。このような新知見に基づいて、シュウ酸合成の阻害とエネルギー生産および生育の抑制を引き起こす阻害剤としてイタコン酸が有効であることが分かった。さらに、他の重要な木材腐朽菌20種類についてグリオキシル酸回路酵素存在の普遍性について検討した結果、すべてのきのこに共通することが分かった。これらの酵素はミトコンドリア内に存在する電子伝達を伴う呼吸酵素系と連動している可能性があり、複合酵素系の機能解析を進めその制御法の開発を成功させるべくさらに研究を進めている。
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