イトマキヒトデに忌避行動を起こさせるニチリンヒトデの生体成分を化学的に研究するために、まず生物検定法の改良を行った。水槽中のイトマキヒトデに検定液を直接又は適当な担体に染込ませて近付けた際に示す反応により忌避行動の有無とその強弱を判定することができた。 カイロモンはニチリンヒトデから水により抽出できるが、その残渣はイトマキヒトデにより捕食された。水抽出物は加熱(80℃、1秒)、プロテアーゼ処理により活性が著しく低下した。一方、グリコシダーゼ処理、固相抽出用担体HP-20(非吸着)では殆ど活性に変化は無かった。このことから、カイロモンはヒトデ類に普遍的に含まれるサポニン、ポリヒドロキシステロイドではなく、ペプチド、タンパク質と考えられる。 数々の固相抽出用、ゲルろ過用担体を検討した結果、生物活性物質の一部がODSに吸着することがわかった。ニチリンヒトデ水抽出液をODSカラムに通すと、強い活性成分は非吸着部(通過液)に含まれていたが、イトマキヒトデはODSのMeOH溶出部にも弱い忌避行動を示した。ODS吸着部:ODSカラムを使用したHPLCで分離を行った所、互いに重なり合った2つのピークに活性が極在していた。それぞれを完全に精製することはできなかったが、2つの画分に分離し、それぞれのESIMS、NMRを検討した結果、イノシンとグアノシンと推定したので標品と比較して同定した。この2核酸は、単独では活性を示さなかったが、ODS吸着部中の存在比(約1:1)に混合した場合、天然物と同等の活性を示した。ODS非吸着部:イトマキヒトデに忌避行動を起こさせるカイロモンの本体はここに含まれる。ニチリンヒトデ水抽出物で検討した結果より、このカイロモンはペプチド、タンパク質と考えられるが、レクチンカラムには吸着しなかった。現在、ペプチド、たんぱく質分離用担体を用いてカイロモンの分離を行っている。
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