研究概要 |
筋肉塊に圧力を加える場合、それによって生じる状態変化を理論的に解明するためには、超高圧下での個々の筋肉構成タンパク質や筋肉内膜構造を構成するタンパク質、あるいは、筋肉内在性蛋白質分解酵素の変性機構を明らかにする必要がある。以下のような結果が得られた。 1. 分光光学的手法により、ATPが存在しないとき、F-アクチンは150 MPaの圧力で不可逆的な変性を始め、300MPaで完全に変性するが、ATPが存在すれば、その保護効果により変性が始まる圧力は250MPaと高圧側にシフトすることが判明した。 2.^1HNMRスペクトル上で、200MPa以上の圧力を加えると、G-アクチンの44,47-Met由来の2.052ppmのシグナル強度が圧力依存的に減少し、それに伴って、DNaseI 阻害能、重合能も失われた。このことは、アクチンは高圧下でATPを遊離すると、まず44,47-Met残基を含む矢じり端ドメイン構造が分子内部に埋もれ、その構造変化に伴いアクチンモノマー間で新たな会合体を形成し不可逆的に変性することを示唆している。 3.低い圧量では、筋小胞体に比べて膜構造がしっかりしているためミトコンドリア膜や膜成分への影響は受けにくいが、膜構造が崩壊し、内膜成分であるATPase活性部位の遊離が引き起こされるような圧力になると、ミトコンドリアはCa^<2+>を保持できなくなり、Ca^<2+>筋原線維内に漏出する。さらに300MPaほどの圧力になるとマトリックス成分の崩壊がおこり、Ca^<2+>取り込み能は完全に失われることが明らかになった。 4.筋肉内在性多機能タンパク質分解酵素,プロテアソームの圧力下での活性変化を高圧装置を設置した蛍光分光高度計によりリアルタイムで測定した結果、50MPaまでの圧力では加圧に伴い活性は増加したが、その後は徐々に低下し200MPaの圧力ではほ失活した。CDスペクトルの測定から、構造の緩やかな変化は活性の増加につながると考えられる。
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