研究概要 |
超高圧下での筋肉構成タンパク質の変性機構を、組織学や生化学的手法に加えて、物理化学的手法を加えることにより研究した。 (アクチン) 1.ε-ATPのアクチンからの解離速度と,メチオニン由来プロトンNMRシグナルの消失速度がほぼ一致することから、一定以上の圧力が加わると、ATPがアクチン分子から解離し、それに伴ってDNaseI及びアクチン結合部位であるメチオニン領域が急速に崩壊して、結果的にATP交換能、DNaseI阻害活性能あるいは重合能を失うのではないかと推測された。 2.処理圧力の増加に伴ってα-ヘリックス含量が減少し、300MPaを超えると不可逆的な変性を起こすことが明らかになった。 (ミオシンおよびトロボミオシン) 1.ミオシンの圧力下でのATPase活性は、加圧とともに増加し、100MPaの加圧下で最大活性を示した。さらに圧力を加えると活性は低下した。加圧後、圧力を開放し、ATPaseとCDスペクトルを測定した結果、200MPa^〜400MPaにかけて、活性の著しい低下とα-ヘリックス含量の減少が認められた。 2.トロポミオシンに圧力を加え、解放後にα-ヘリックス含量を算出した結果、トロポミオシンが酸や熱と同様に、超高圧に対しても安定なタンパク質であることが判明した。 (ミトコンドリアと結合組織) 1.ミトコンドリアのCa^<2+>取り込み能の低下は、圧力によって誘起される内膜成分のATPase活性部位の遊離と相関した。 2.筋肉内結合組織の筋周膜の構造は、処理圧力の増加につれて破壊されるが、プロテオグリカンの抽出性の変化は認められなかった。 (プロテアソーム) 筋肉内在性タンパク質分解酵素,プロテアソームの圧力下での活性を測定した結果、50MPaまでの圧力では加圧に伴い活性は増加したが、その後は徐々に低下し、200MPaの圧力ではほぼ失活した。構造の緩やかな変化が活性の増加につながると考えられる。 (β-ラクトグロブリンおよび高圧解凍) 1.NMRスペクトルから、乳タンパク質β-ラクトグロブリンは中性域よりも酸性域の方が圧力に対して強く,柔軟であるが,酸性pHにおいても加圧処理により天然状態の構造は一部失われるものと結論した。 2.凍結肉の流水解凍と高圧解凍を比較した結果、200MPa以下の高圧解凍は豚肉からのドリップの減少をもたらすと同時に肉の軟化を生じ、肉製品の加工に有力な方法であることが明らかになった。
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