ルーメンにおけるメタン生成の制御と繊維消化の増進

2000 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 10460125
• 研究機関: 明治大学
• 研究代表者: 日野 常男 明治大学, 農学部, 教授 (50012050)
• 研究分担者: 長峰 孝文 農林水産先端技術研究所, 研究第2部, 研究職主任研究員 ; 竹中 昭雄 農林水産省, 東北農業試験場, 農林水産技官 ; 板橋 久雄 東京農工大学, 農学部, 教授 (00280991) ; 鷲尾 雄一郎 伊藤忠飼料, 総合技術研究部, 研究員 ; 田島 清 農林水産先端技術研究所, 研究第2部, 研究職研究員
• キーワード: ルーメン / メタン生成 / フマル酸還元 / 硝酸還元 / メタン抑制物質 / サイクロデキストリン包接化合物 / プロピオン酸

研究概要

1.メタン生成を低減させるために、フマル酸還元の増強のための基礎研究を行った。即ち、その能力の高い菌を検索し、フマル酸還元酵素の活性と特性を解析した。また、主要フマル酸還元菌のSelenomonas lactilyticaを繊維分解菌と共培養したところ、フマル酸の添加によって繊維分解菌の増殖が促進され、繊維の消化率が増加した。従って、フマル酸の供給によりメタン生成が減少すると共に、繊維の消化が改善されると考えられる。
2.S.lactilyticaのフマル酸還元系を増強するための基礎研究として、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼとピルビン酸キナーゼの特性、活性調節因子、遺伝子構造、転写調節などを明らかにし、この反応系の制御法についてのターゲットを絞った。
3.メタン生成の低減化のためには硝酸・亜硝酸還元の増強も有効と考えられるので、この反応系に及ぼす要因について検討し、硝酸および亜硝酸還元酵素の合成は基質である硝酸および亜硝酸により誘導されることを明らかにした。また、ギ酸、H2、乳酸などの電子供与体を添加すると、硝酸、特に亜硝酸の還元が大きく促進され、亜硝酸の蓄積量が低下した。従って、ギ酸や乳酸の生成を増やせば、発酵低下を招かないでメタン生成を抑制できると考えられた。
4.中鎖脂肪酸(C8、C10、C12)、ユーカリ油、およびヨードプロパンをサイクロデキストリン(CD)に包接し、培養実験でメタン抑制効果を検討した。中鎖脂肪酸-CD(0.6mg/ml)の添加によりメタン生成は約20%低下した。全体的にプロトゾア数も低下し、メタン生成はC10>C12>C8の順に抑制された。いずれの脂肪酸の場合も、プロピオン酸の比率が増大した。ユーカリ油-CDの添加(0.6mg/ml)により、メタン生成が約60%低下した。プロトゾア数は著減したが、プロピオン酸の比率は高まった。ヨードプロパン-CDの添加(4mM)でメタン生成は著しく低下し、プロピオン酸の比率は増大したが、水素生成も増加した。
5.牛の飼料にフマル酸添加(2%)を添加したところ、メタン生成は5%低下し、プロピオン酸の比率は増大し、飼料乾物とNDF(繊維)の消化率は高まった。また、エネルギーと窒素の蓄積率が増加した。ユーカリ油(0.25%)-CDを添加した場合には、プロピオン酸の比率と血漿中のグルコース濃度は高まったが、メタン抑制効果は認められず、エネルギーと窒素の蓄積率も変化しなかった。

研究成果

• [文献書誌] T.Miwa: "Effect of reduced H+-ATPase Aactivty on acid tolerance in Streptococcus bovis mutants"Anaerobe. 6. 197-203 (2000)
• [文献書誌] N.Asanuma: "Effects of pH and energy supply on activity and amount of pyruvate formate lyase in Streptococcus bovis"Appl.Environ.Microbiol.. 66. 3773-3777 (2000)
• [文献書誌] N.Asanuma: "Activity and properties of fumarate reductase in ruminal bacteria"J.Gen.Appl.Microbiol.. 46. 119-125 (2000)
• [文献書誌] T.Miwa: "Regulation of H+-ATPase synthesis in response to reduced pH in ruminal bactria"Curr.Microbiol.. 42. 106-110 (2001)
• [文献書誌] M.Iwamoto,: "Effects of pH and electron donors on nitrate and nitrite reduction in ruminal microbes"Anim.Sci.J.. 72・2. 117-125 (2001)
• [文献書誌] Eruden Bayaru: "Effect of fumaric acid on methane production, rumen fermentation and digestibility of cattle fed roughage alone"Anim.Sci.J.. 72・2. 139-146 (2001)
• [文献書誌] H.Itabashi: "Effect of fumaric acid or bromochloromethane-CD on ruminal methanogenesis in cattle"South Afr.J.Anim.Sci.. 29. 138-139 (1999)
• [文献書誌] H.Itabashi: "Methane output and rumen microbial composition by 165SrDNA analysis-Effect of bromochloromethane. In "Greenhouse Gases and Animal Agriculture" (Eds.J.Takahashi and B.Young)"The University of Queensland, Gatton, Queensland, Australia. 5 (2000)