研究概要 |
本研究の目的はサルを用いてイタイイタイ病(慢性カドミウム中毒症)の動物モデルを作出し、イタイイタイ病の特徴病変である腎性貧血、尿細管性腎症および骨軟化症の発生メカニズムを解明することである。推定年齢5歳以上の雌のカニクイザル10頭を購入し、卵巣摘出後、生理食塩水に溶解した塩化カドミウム1.0(n=3)あるいは2.5(n=3)mg/kgを13ないし15カ月にわたり尾静脈より反復投与(3回/週、ただし2.5mg/kg群については投与開始後9カ月より2回/週)した。残りの4頭には生理食塩水のみを静脈内投与した。 投与開始後月1回の頻度で血液学的検査、血液生化学検査、尿定性検査、および尿生化学検査を実施した。投与期間終了後全例を屠殺剖検し、腎臓、肝臓、大腿骨および腰椎の組織学的検査を行った。その結果、カドミウム投与群では正球性正色素性貧血(腎性貧血)、尿細管萎縮および間質繊維化を主病変とする腎臓障害(カドミウム腎症)、類骨の増加と骨萎縮を主病変とする骨障害(カドミウム骨症)が誘発された。骨では骨密度の低下が顕著で、それは骨量の減少と類骨の増加に起因することが二重X線法並びに画像解析装置を用いた形態計測によって確認された。また、血液および尿生化学検査では血中カルシウム、リンおよび1α,25(OH)_2D_3の低下、並びに尿中d-PYRの増加が認められた。以上の結果から、カドミウムを長期間反復静脈内投与することにより、霊長類においてもヒトのイタイイタイ病に極めて類似した慢性カドミウム中毒症を再現できること、骨病変の発生には腎障害が強く関与していることが示された。
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