総排泄腔接種で累代継代することにより得られた腎炎型に変異した鶏伝染性気管支炎ウイルス(IBV)の変異の分子遺伝学的解析を中心に検討を行った。その結果、以下に述べる成績が得られた。 1.親ウイルスである呼吸器病型IBVと腎炎型IBVの間には、ウイルス構成蛋白の分子量が変化するほどの大きな変異は認められなかった。 2.制限酵素 BpuA1、Hpa1、Pst1による切断部位が、S1遺伝子の臓器親和性に関連した変異部位ではないと考えられた。 3.親株と継代株について、S1蛋白の208番目のアミノ酸が親株ではアルギニンであるのに対し、継代株ではリジンに置換していることが明らかになった。 4.呼吸器病型IBVと腎炎型IBVにおいて、トリプシンに対する感受性に有意な差異は認められなかった。 以上の成績から、S1蛋白の208番目のアミノ酸が、本ウイルス株の臓器親和性に何等かの関与を持っている可能性が示唆された。今後、この変異がS1蛋白のどのような機能に影響して、臓器親和性を変化させたのか明らかにする必要のあると考えられる。また、呼吸器病型である親株と腎炎型ウイルスの性状を有する継代株の。S1遺伝子全塩基配列を比較解析することにより、IBV感染による腎炎発病機構の解明につながることが期待される。
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