研究概要 |
大腸菌トリプトファン合成酵素欠損株の復帰変異を指標として、新しく植物食品から単離・同定した2種類の抗変異原化合物(MMTS,GC)に加えて、京野菜から新たに2種類の抗変異原化合物(2,4-ND,BA)とそれらの活性をシネルギスチックに高める化合物(SA)を単離・同定した。紫外線照射後の大腸菌からゲノムDNAを単離して、抗体を用いたELISA法によってビリミジンダイマー量を定量したが、いずれの処理においても対照区と有意な差は認められなかった。少なくとも大部分のビリミジンダイマーの除去修復における過程には直接作用しないと推定された。大腸菌のゲノムDNAの修復に関わる遺伝子の調節領域をレポーター遺伝子に融合し、それらのキメラプラスミドで形質転換した大腸菌を用いて、抗変異原処理により転写活性が変化する遺伝子を調べた。その結果、各種抗変異原化合物の処理が紫外線照射により増加したumuDCの転写活性を有意に減少させることが明らかとなり、このことが突然変異の発生を抑制することにつながると考えられた。b-galactosidase遺伝子の誘導系やRAPD法を用いることにより、突然変異量を比較できることが分かった。これらの新規抗変異原化合物が高等動物にどのように作用を及ぼすかを研究するために、培養細胞内導入した8種類のシグナル伝達系との関連を調べた。その結果、抗変異原単独処理の実験において、熱ショックの応答系、グルココルチコイド応答系、活性化T細胞性核内因子応答系が2〜4倍増加することが明かとなった。本実験により、食品に含まれる成分のいくつかのものが、除去修復の活性化によるDNAの損傷量を減少させるのではなく、変異を生じるumuDC遺伝子の転写に影響を与えていることが分かった。ヒト培養細胞におけるシグナル伝達系への効果と抗変異活性との関係は解明するには至らなかった。
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