脂肪酸合成には大別して2つの酵素が必要である。アセチルCoAカルボキシラーゼ(ACCase)と脂肪酸合成酵素である。ACCaseは脂肪酸合成量を調節している重要な酵素である。植物のACCaseは葉緑体にあり、光で活性化され、脂肪酸合成が光合成と協調するような仕組みになっていることを私は発見した。この分子機構を証明することが本研究の目的である。 ACCaseは複合酵素で、ビオチンカルボキシラーゼとカルボキシルトランスフェラーゼとからなる。このうちカルボキシルトランスフェラーゼだけがレドックス制御を受けていることを明らかにした(Biochemical J.1999)。カルボキシルトランスフェラーゼのシステイン残基を改変して、レドックス制御を分子レベルで明らかにするため、発現ベクターにカルボキシルトランスフェラーゼcDNAを組み込み、大腸菌に発現させた。カルボキシルトランスフェラーゼはαとβポリペプチドからなる。エンドウの各ペプチドのcDNAを順次つなぎ、活性ある酵素を得た(J.Biol.Chem.2000)。この実験途上、葉緑体ゲノムにコードされたβペプチドがRNA editingされ、これが酵素活性に必須であることを発見した(J.Biol.Chem.2001)。この酵素には13のシステインがあるので、これらのシステインの各々を1つづつアラニンに変えた酵素を作成し、レドックス制御されるか検討した。その結果、各ペプチドに1こづつレドックスに関わるシステインを同定した。これらのシステインは互いにS-S結合することも確認した(投稿準備中)。 以上より、脂肪酸合成の鍵酵素であるアセチルCoAカルボキシラーゼのカルボキシルトランスフェラーゼのシステインが光のシグナルを受け取り、酸化・還元され、それにより酵素の活性が変化し、脂肪酸合成速度が明暗で変化することが証明できた。
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