(1) アデノウイルスを用いて損傷舌下神経への遺伝子導入の方法について検討した.マーカー遺伝子LacZをコードする遺伝子をアデノウイルスに組込み様々な注入法を試みた.その結果、損傷神経断端や標的の骨格筋からの感染が有効であることが明らかになった. (2) 神経再生関連遺伝子のベクター構築.神経再生関連遺伝子として得られたものをアデノウイルスに組み込むためのベクター構築と組換え体の作成を行った.GDNF、Akt、MEK、Bcl-2、などについて組込みを試みた.しかし、このうちいくつかは組換え体ができなかった.そこでCre-LoxPのシステムを導入し、通常は発現をOFFにしておきCreをコードするアデノウイルスを共感染させることによりONにするシステムの構築を行った.2つのLoxPの間にストップコドンを含むスタッファーを組込み、その下流に目的の遺伝子を組み込んだ.これとは別にCreを発現するアデノウイルスベクターを構築した.これにより従来の方法ではできなかった組換え体が得られるようになった. (3) 組込み遺伝子の培養細胞での発現.得られたアデノウイルス組換え体はPC12などの培養細胞を用いて、実際に細胞で発現することを確認した. (4) ラットの舌下神経核への導入.(1)で得られた導入法を用いて軸索損傷を与えたラットの舌下神経核への遺伝子導入を試みた.その結果、培養系ほどの発現効率は得られないものの、約60〜70%の運動神経細胞に発現させることに成功した.これにより、本実験系を用いて各種の損傷神経関連遺伝子の機能を解析するためのシステムが確立したと考えられる.
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