昨年度までにアデノウイルスベクターを用いた神経遺伝子導入システムが確立しており、これを用いて生体での神経細胞死防御をめざした。さらに、新たに得られた神経再生関連遺伝子についてアデノウイルスベクターを用いてその機能解析も試みた。 (1)アデノウイルスを用いてGDNF、Akt、MEK、Bcl-2、などを損傷神経細胞において強制発現させ、神経細胞死に与える影響について検討した。新生児ラットの舌下神経損傷モデルを用い、軸策損傷に起因する神経細胞死がどの程度防御できるかについて検討した。その結果、GDNF、Akt、Bcl-2を発現させたものについては、神経細胞死を回避させることに成功したが、MEKを発現させたものでは、神経細胞死を防御することができなかった。このことから、神経栄養因子受容体の下流の情報伝達系において、Aktを介する経路は細胞死防御に役立っているが、MEKを介するいわゆるRas-MAPキナーゼ系は細胞死防御には関与していないことが結論された。また、Aktを介する情報伝達系は、損傷神経軸策の突起伸展においても何らかの機能を有していることを示唆する結果が得られた。PC12にAktを発現させるとNGF非存在下でも突起伸展が見られ、さらに成熟ラットの損傷舌下神経にAktを導入すると、軸策伸展速度の促進が観察された。Aktがどのように機能して軸策の伸展にいたるのか、その分子メカニズムについては未だ不明であるが、次年度以降の課題として、検討してゆきたい。 (2)我々が行っている神経再生関連遺伝子探索において同定されたRhoファミリーの分子であるTC10は軸策の再生に重要な役割を担っていると考えられたので、アデノウイルスベクターを用いた発現系を用いることによって、生体での損傷軸策の再伸展におけるその機能解析を継続中である。
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