(1)LacZを発現するアデノウイルスを用いて損傷舌下神経への遺伝子導入の方法について検討した。その結果、損傷神経断端や標的の骨格筋からの感染が有効であり、約60〜70%の運動神経細胞に発現させることに成功した。これにより、本実験系を用いて各種の損傷神経関連遺伝子の機能を解析するためのシステムが確立したと考えられる。 (2)神経再生関連遺伝子のベクター構築。神経再生関連遺伝子どして得られたものをアデノウイルスに組み込むためのベクター構築と組換え体の作成を行った。Cre-LoxPのシステムを導入し、Akt、MEK、Bcl-2、などについて組換え体を得た。 (3)アデノウイルスを用いてAkt、MEK、Bcl-2などを損傷神経細胞において強制発現させ、神経細胞死に与える影響について検討した。その結果、Akt、Bcl-2を発現させたものについては、神経細胞死を回避させることに成功したが、MEKを発現させたものでは、神経細胞死を防御することができなかった。このことから、神経栄養因子受容体の下流の情報伝達系において、Aktを介する経路は細胞死防御に働いているが、Ras-MAPキナーゼ系は細胞死防御には関与していないことが明らかとなった。 (4)神経軸索伸展分子の可能性があるTC10について解析をおこなった。TC10を発現するアデノウイルスを構築し、軸索伸展について解析した。その結果、TC10は運動神経再生時に発現が亢進し、神経突起の伸展を促進することが明らかになった。 以上の結果より、本研究で我々が開発したアデノウイルスベクターを用いて、運動ニューロンの神経細胞死は回避させたり、軸索伸展を促進させることができることが、実験動物レベルで明らかになった。
|