研究概要 |
中枢神経細胞におけるバソプレシン受容体を介する細胞内情報伝達経路を明らかにする目的で,急性単離した海馬CA1錐体細胞にパッチクランプ法を適用し,グリシン(Gly)誘発のクロライド電流(IGly)に対するアルギニン・バソプレシン(AVP)およびその関連ペプチドの影響を検討した。AVPおよびその関連ペプチドは,IGlyを時間依存的および濃度依存的に抑制した。また,AVPの脳内代謝産物(AVP(4-9))およびその合成アナログであるNC-1900によるIGly抑制は,V1受容体アンタゴニスト,または1,2-bis(2-amino-5-fluorophenoxy)ethane-N,N,N',N'-tetraacetic acid(BAPTA-AM)の前処理によって阻害された。一方,これらの薬物は1-desamino-8-D-AVP(DDAVP)によるIGly抑制に対して影響を与えなかった。 一方、V2受容体アンタゴニストは,AVP(4-9)およびNC-1900によるIGly抑制に対して影響を与えなかったが,DDAVPによるIGly抑制を阻害した。AVPによるIGly抑制は,V1受容体アンタゴニストおよびV2受容体アンタゴニストの同時投与により完全に阻害された。NC-1900によるIGly抑制は細胞外Ca2+を除去しても発現したが、タプシガルジンによって阻害された。また、従来のホールセルパッチクランプ法で,電極内液にヘパリンまたは抗IP3抗体を添加すると,NC-1900によるIGly抑制は消失した。さらに、NC-1900によるIGly抑制はCa2+/カルモジュリン(CaM)阻害剤によって阻害された。しかし,KN-62(CaM依存性キナーゼII阻害剤)およびPKC活性の修飾剤は,NC-1900によるIGly抑制になんらの影響を与えなかった。また、2',5'-ジデオキアデノシン(アデニレートサイクラーゼ阻害剤),Rp-cAMPSおよびH-89(PKA活性阻害剤)は,NC-1900およびDDAVPによるIGly抑制を阻害した。 これらの結果から,海馬CA1錐体細胞において,V1受容体の活性化はIP3を産生し,IP3-感受性Ca2+ストアからCa2+を放出させる。このCa2+はCaMと結合し,Ca2+/CaM-感受性アデニレートサイクラーゼを活性化する。その結果,PKAが活性化されてIGlyが抑制されると結論した。
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