生筋とスキンド標本を用いて心筋収縮の筋長依存性分子機構を調べた。フェレットの右室乳頭筋表層細胞内にエクオリンを注入して、Ca信号と張力を同時記録した。Lmaxから88%Lmaxに筋長を急速に短縮させると、Ca信号にハンプが出現した(Extra-Ca)。Extra-Caは張力低下がトロポニンCのCa親和性を低下させ、トロポニンCから解離するCaを反映している。Extra-Caの大きさは筋長短縮に伴う張力変化分と細胞内Ca濃度に比例して増加した。細胞外Ca濃度を増したり、CaチャネルのアゴニストBay K 8644を作用させ細胞内Ca濃度を増加させると、筋長変化直前の細胞内Ca濃度で正規化したExtra-Caは減少した。また、細胞外Ca濃度の低下や収縮を抑制するBDMは逆の効果を示した。これらの結果は、クロスブリッジ依存性に変化するトロポニンCのCa親和性は細胞内Ca濃度の調節を受けていることを示唆している。細胞内Ca濃度増加は、活動クロスブリッジの数を増やすことによって、トロポニンCのCa親和性を高めるので、トロポニンCからCaが解離しにくくなり、張力変化に伴う正規化Extra-Caが減少すると考えられる。スキンド標本のpCa-張力関係を測定して、筋長変化によってもたらされるpCa-張力関係の移動度に対するHイオンと燐酸の効果を調べた。Hイオンや燐酸濃度が高くなると、筋長効果は増大した。また、最大収縮力が低下した。スキンド標本に高分子化合物デキストランを加えると浸透圧差によって格子間隔が縮小し、筋長を長くした時とほぼ同程度にCa感受性が増大した。更に低濃度のトリプシンでスキンド心筋を処理すると、コネクチンが選択的に分解され静止張力が低下した。また、活動張力も低下し長さ-張力関係の傾斜が緩徐になった。これらの結果は、活動クロスブリッジの形成が心筋収縮の調節に重要であることを示唆している。
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