研究概要 |
細胞内カルシウムイオン(Ca^<2+>)は種々の重要な細胞機能を制御する中心的な因子である.刺激に際するCa^<2+>濃度([Ca^<2+>]_i)の反復性性の上昇はCa^<2+>オシレーションと呼ばれ,種々の細胞で観察される一般的なCa^<2+>増加反応パターンである.我々は哺乳動物卵受精時にCa^<2+>オシレーションが発生することを見いだしたが,その誘発蛋白質(Ca^<2+> oscillation-inducing protein;COIP)は即ち卵活性化因子であるので,その同定は細胞生理学のみならず発生生物学上極めて重要である.本研究は精子からCOIPを精製・同定するとともに,その作用機序を明らかにすることを目的としている.平成10年度には以下の結果を得た. 1) ハムスター精子を超音波で破砕し,抽出物を硫安処理したのちアフィニティークロマトグラフィーにかけてCOIPを粗精製し,さらにイオンクロマトグラフィーにかけてCOIPを精製して終末アミノ酸配列を同定した.現在COIPのcDNAクローニングが進行している. 2) 粗精製のCOIPをマウス卵内の局所に微量注入し,[Ca^<2+>]_i上昇の時・空間的パターンを共焦点レーザー顕微鏡を用いて詳細に画像解析した.卵表層の細胞質が中心部に比してCOIPに対する感受性が高いこと,COIPの作用は小胞体からイノシトール3リン酸受容体(IP3R)を介するCa^<2+>遊離を増強することであることを明らかにした. 3) 脊索動物ホヤの精子抽出物をホヤ卵に注入し,受精時に極めて類似したCa^<2+>オシレーションを誘発すること,受精時と同様の時間経過で第一・第二減数分裂を進行させることを明らかにした. これらの実験により,精子細胞質にCOIPが存在し,受精時に類似したCa^<2+>オシレーションを誘発すること,卵皮質に感受性が高くIP3Rを介するCa^<2+>遊離を誘発することが明らかとなり,今後の実験が期待される.
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