感染防御に関与するパネト細胞は小腸線部の奥深く少数存在するために生理学研究の対象とされず、他の線部上皮細胞と同様にCFTRによるサイクリックAMP(cAMP)依存性CI^-分泌を行うかなど不明の点が多いままである。そこで本研究では「パネト細胞はCFTR CI^-チャネルによってCI^-を行うか?」、という積年の疑問に初めて答えると共に、世界に先駆けて「パネト細胞における単一細胞レベルにおける生理学的研究」に端緒をきることが本研究の目的である。 昨年度には、このCI^-チャネルの電機生理学的性質の詳細を解析し、これまでに明らかになっているCFTR CI^-チャネルの性質との異同を明らかにすることができた。そこで本年度は、単一パネト細胞のmRNAをパッチ電極に回収して逆転写ー遺伝子増幅(RT-PCR)を行うという単一細胞RT-PCR法(パッチRT-PCR法)を適用し、これによってパネト細胞におけるCFTR遺伝子の発現を確認すること、更にはCFTR抗体を用いてCFTR蛋白の発現をも確認することを目的とした。その結果、次の成果が得られた。 パネト細胞のCFTR遺伝子の発現の証明 パッチクランプ全細胞電流記録法によってcAMP依存性CI^-チャネルが機能的に発現していることが確認された単一パネト細胞から細胞質を、パッチ電極内へ陰圧をかけて吸い込み、陽圧をかけてPCRチューブへこの細胞質回収し、これに逆転写させた上でセンスおよびアンチセンス・プライマーとポリメラーゼを加え、PCR装置を用いて遺伝子増幅させて、CFTR遺伝子の発現を確認できた。 パネト細胞におけるCFTR CI^-チャネル蛋白の発現の証明 既にシークエンスのわかっているラットCFTRの細胞外ドメインの部分シークエンスに対する抗体をいくつか作製し、これを用いてラット単離腺における免疫染色体(蛍光抗体法)を行い、パネト細胞においてCFTR蛋白の発現を確認した。
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