研究概要 |
平滑筋臓器の自動能の発現と,その機能に適応した平滑筋細胞の機能的分化に関わる分子の一つにc-kitがある.胃腸管において電気的なペースメーカー信号を発生させているc-kit陽性細胞(Cajal間質細胞)の分布と機能についてさらに明らかにするために,抗c-kitモノクローナル抗体(ACK2)を出生直後から8日目まで腹腔内投与したBALB/cマウスを用いて,免疫組織化学的,電顕的に検討した. c-kit陽性細胞は,平滑筋層に存在しペースメーカー細胞として機能するだけでなく,神経と平滑筋の間に介在して腸管神経系から平滑筋への神経伝達の調節も行っていることが示唆された.形態学的には,細胞膜に多くのcaveolaeを有し,ギャップジャンクションで互いに電気的にカップリングしたネットワークを形成しており,そのネットワーク機能の維持にもc-kit蛋白(レセプター型チロシンキナーゼ)が必要であった.また,c-kit陽性細胞自身の分化と増殖にもkitシグナリングを必要とした.ペースメーカー領域のc-kit陽性細胞と平滑筋細胞は,同じc-kit陽性の前駆細胞から発達しており,どちらの細胞に分化するかはkitシグナリングに依存していた.即ち,ACK2によってc-kitレセプターをブロックすると,ぺースメーカー領域に残っているc-kit陽性細胞は平滑筋細胞に似た微細構造(多数のフィラメント束,筋肉に特異的な中間径フィラメント蛋白デスミン,平滑筋ミオシン)を呈し,深部筋神経層の前駆細胞は未分化のままであった.以上より,c-kit陽性細胞と平滑筋細胞の間に固有の可塑性が存在し,それがc-kitに依存した細胞シグナル系に調節されていることが示唆された.
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