骨組織は外的環境に対応して形状変化を起こす。この骨組織に特有のホメオスタシスは現象的には古くより明らかであったが、その分子機構は全く不明であった。骨組織に外力が加わったときに、もっともその外力を受ける細胞として骨細胞が候補に挙がっていた。我々は外力が加わった骨組織の骨細胞において発現変化のある遺伝子を検索し、オステオポンチンを同定した。オステオポンチンは骨基質から単離された細胞外基質蛋白であり、リン酸カルシウムと高い親和性を有する。また、オステオポンチンはそのアミノ酸配列のなかにRGDSというインテグリンと結合するモチーフをもっている。ラット骨組織において、荷重がかかっていない歯槽骨の骨細胞にはオステオポンチンが全く発現していない。しかし、第一臼歯と第二臼歯の間に輪ゴムをはさんで、臼歯間を押し広げて、歯槽骨に圧迫、あるいは牽引力をかけたとき、24時間後に圧迫をうけた歯槽骨に存在する骨細胞の90%がオステオポンチンを高度に発現することを見出した。さらにオステオポンチンが歯槽骨表面に達し、インテグリンを発現する破骨細胞の骨への接着をうながすことを証明した。実験動物にRGDSペプチド、あるいは抗オステオポンチン抗体をを注入することによって圧迫側への破骨細胞の接着、あるいはそれに引き続いて起こる骨吸収反応が阻害されることから、オステオポンチンは骨の外力に対応するホメオスタシスをになう分子であることが判明した。我々はさらにオステオポンチンのプロモーター解析をおこない、外力対応エレメントを同定した。
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