研究概要 |
ビブリオ属菌は自然環境水を本来の生息域とする細菌であるが,コレラ菌や腸炎ビブリオなど多くの病原種が含まれている。病原菌が感染して発症するためには種々の病原因子を必要とするが,これらの病原因子は単独で症状を惹起することは少なく,相互に作用しあい,あるいは補完的な作用をしている場合が多い。本研究はVibrio vulnificusおよびV.mimicusの溶血毒,プロテアーゼ,シデロフォア,さらにはエンテロトキシン等の病原因子の病原性発現における相互・相補作用の検討を行い,病原性の発現を総合的に捉えることを目的としている。平成10年度は主として個々の因子の分子レベルでの作用機構の解明に努め, V.vulnificus protcase(VVP)の作用機構で大きな進展を得た。VVPがヒスタミンおよびブラジキニンを遊離させて炎症浮腫形成を引き起こす機構については既に明らかにしているが,同時に出血作用をも惹起する。この作用はセラチアプロテアーゼのように炎症浮腫形成を引き起こす他の細菌性プロテアーゼに比べて非常に高く,VVPに特異的な作用であることが明らかになった。さらに作用機構について検討し,血管基底膜を構成する2要素,ラミニンとTypeIVコラーゲンの内,後者に強く働くことによることを明らかにした。また,VVPは血球凝集活性を持つが,これは45kDaの分子量を持つ状態で発揮され,C末側を脱離して35kDaとなった場合には見られず,C末側10kDaの部分に血球との結合部位があることを明らかにした。しかし,N末側のタンパク分解作用のドメインにも弱い結合性があり,その結果2つの結合部位を持つ多価分子となって凝集作用に結びつくことが示された。プロテアーゼは溶血毒やエンテロトキシンのプロセッシング,活性化に働いているが,その際このような多価性が有効に働いているものと思われる。
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