研究概要 |
ビブリオ属菌は自然環境水を本来の生息域とする細菌であるが,コレラ菌や腸炎ビブリオなど多くの病原種が含まれている。病原菌が感染して発症するためには種々の病原因子を必要とするが,これらの病原因子は単独で症状を惹起することは少なく,相互に作用しあい,あるいは補完的な作用をしている場合が多い。本研究はVibrio vulnificusやV.mimicusなどの病原ビブリオが産生する溶血毒,プロテアーゼ,シデロフォア,さらにはエンテロトキシン等の病原因子の病原性発現における相互・相補作用の検討を行い,病原性の発現を総合的に捉えることを目的としている。前年度は主として個々の因子の分子レベルでの作用機構の解明に努め,V.vulnificus proteaseの作用機構で大きな進展を得,Type IVコラーゲンに対する作用が出血の際には強く働いていることをin vitroの系で明らかにしたが,本年度はそれをさらに進めて組織学的な検討でこれを証明した。一方,V.mimicusにおいてはPCR法による毒素遺伝子の分布についての検討を行い,コレラ菌の主要毒素であるコレラ毒素や耐熱性エンテロトキシン(ST)の分布は臨床分離株での低いが溶血毒の分布は極めて広いことを示した。このうち,腸炎ビブリオの耐熱性溶血毒と類似の毒素(Vm-TDH)は臨床分離株にのみ見い出され,主要病原因子としての可能性が強く示唆されたが,50%以上の株はこれを保有せず,他の因子の寄与を考えねばならない。他方,V.mimicus固有の溶血毒(VMH)は臨床及び環境分離の全ての株に存在しており,同菌にとって本質的な因子と考えられるが,精製したVMHは単独でウサギ結紮腸管に液体貯留を起こす下痢毒性を保有しており,V.mimicusの感染症発現には種々の因子が複雑に関与していることが改めて示された。
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