研究概要 |
自然環境水を生息域とするビブリオ属菌には数種の病原種が含まれているが,いずれも種々の分泌性毒性因子を産生している。これらの病原因子は単独で症状を惹起することは少なく,相互に作用しあい,あるいは補完的な作用をしている場合が多い。本研究はVibrio vulnificusやV.mimicusなどの病原ビブリオが産生する溶血毒,プロテアーゼ,シデロフォア,さらにはエンテロトキシン等の病原因子の病原性発現における相互・相補作用の検討を行い,病原性の発現を総合的に捉えることを目的としている。本年度は最終年度であり,V.vulnificusやV.mimicusの溶血毒(VVHとVMH)とプロテアーゼ(VVPとVMP)の相互作用を中心にとりまとめの研究を行った。VVHとVMHはともにコロイド浸透圧溶血を起こす毒素であるがタンパクレベルでの相同性は低く,後者は下痢原性を示すのに対して前者にはそれが見られないなど,作用面でも相違が見られる。両者を夫々のプロテアーゼで部分分解するとVVHでは溶血性の基本的な性状には相違がないものの,生物型1のVVHでは安定性の低下が見られ,生物型2のVVHは自己凝集から保護されるため,却って安定性を増すことが示された。また,VMHの場合にはC末側の約10kDaが脱離し,溶血活性は保持されるが,下痢因子としての作用を失うことが示された。C末側の約10kDaの脱離はプロテアーゼ自身の自己分解でも観察されて,可溶性タンパク質に対する加水分解能には変化が見られないが,血球凝集などの生物作用が低下することを観察している。C末側の補助的な機能ドメインとしての役割をプロテアーゼが変化させていると考えられる。
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