・わが国で1996年に腸管出血性大腸菌(O157:H7)による大流行が発生したが、この流行株はすべて特異なEAST1毒素様の変異配列を有していた。この特異配列を検出するPCRプライマーを作製した。同様のEAST1毒素様配列がペスト菌のIS配列上にも存在した。 ・1996年の流行事例では、盛岡事件だけが薬剤耐性株によるもので、その他の事例は薬剤感受性株によるものであった。散発事例では9種類の薬剤耐性パターンが確認された。また、米国で報告された3剤耐性(テトラサイクリン、ストレプトマイシン、サルファ剤)がわが国の患者株とウシ株でも見いだされた。わが国の場合にも、患者株の薬剤耐性遺伝子がウシなどの家畜株に由来する可能性が考えられた。耐性遺伝子の全塩基配列を決定した。 ・腸管出血性大腸菌(O157:H7)が腸管上皮細胞の表面に粘着すると、O157は伸長した細胞膜によって被われてしまう("めり込み"型粘着)。この粘着を示しているO157は、ベロ毒素を腸管腔内に拡散させることなく、高濃度に細胞に作用させていると思われる。 ・血清型O128の腸管出血性大腸菌が、連鎖状の粘着様式を示すことを見いだした。O128株は特異な分泌系をもち、エンテロヘモリジンを大量に産生した。 ・腸管出血性大腸菌が産生するエンテロヘモリジンはヒト末梢血単核球に作用してサイトカイン(IL-1β)の産生を誘導した。TNF-α産生の誘導は認めなかった。エンテロヘモリジンの作用として、従来考えられていた孔形成細胞毒活性(溶血活性)の他に、IL-1βの産生誘導を介してGb3を誘導し、ベロ毒素の作用を高めるといったもう一つの作用が考えられた。 ・微小循環改善薬であるanisodamineが、ベロ毒素によるTNF-α(重篤化因子)の産生誘導を抑制し、ベロ毒素によるマウスの死亡を改善した。
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