癌細胞が増殖を続けるためには、染色体の末端複製問題を克服することが必要となる。この染色体維持にはテロメレース活性が重要であることはよく知られている。 体細胞では普通テロメレース活性は発現しておらず、細胞が分裂するのにつれてテロメアが削れていくことが細胞寿命の有限性を規定するのに関わっていると考えられており、細胞を不死化するには何らかのテロメア維持機構が必要と考えられる。多くの癌細胞株でテロメレース活性の亢進が認められる点もこのことを支持している。 この研究課題では、HRV陽性の子宮頚癌由来細胞株であるHeLa細胞を用いて癌細胞におけるテロメレース活性に関して検討を加えた。HPV陽性の癌細胞はHPVE2の発現によりその増殖が阻害されることが知られている。HeLa細胞においてもやはりE2による増殖阻害が認められるが、この研究から、このとき細胞内でもともと高いレベルで発現しているテロメレース活性が低下すること、及びテロメアの短縮がおこっていることを見出した。このテロメアの短縮がHeLa細胞の増殖阻害に関与している可能性が高いと考えられた。 我々は更にこのテロメレース活性抑制の機構の解析をすすめ、いくつかの示唆的なデータをた。これまでのE2によるHeLa細胞増殖阻害機構の解析により、我々はウイルスの転写因子であるE2がウイルスのもつ癌遺伝子E6/E7の発現を抑制しており、それが増殖阻害に関わっていることを見出した。さらに、このE6/E7の発現抑制が、E2によるテロメレース活性抑制にも関わっていることを明らかにした。 またE6/E7のうち、E7の発現のみにより、E2によって抑制されたテロメレース活性が回復したことから、HeLa細胞での高いテロメレース活性を保証しているのはE7であると思われる。 今後このE7によるテロメレース活性維持機構の解析を通して、癌細胞でのテロメレース活性の意義やテロメア維持機構の詳細、また反対に通常の細胞でテロメア長を監視している機構の実体についても明らかにすることができるのではないかと期待している。
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