ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)がコードするTaxの細胞遺伝子発現制御機構のうちで、がん抑制遺伝子産物p53の転写活性を抑制する機構の解明をおこなった。同時に、p53ファミリー、p73、p51などに対するTaxの転写活性抑制に対する効果についても解析した。 筆者は以前に、Taxがp53の転写活性を抑制することを見い出して報告した。本研究においては抑制効果の分子的な基盤を明らかにすることを目的とした。また、最近p53とファミリーを形成する遺伝子の存在が知られ、p53と幾分重複する機能を持つことも報告されている。従って、Taxがp53以外のファミリーに対しても同様に転写活性を抑制するか否かについても同時に解析を行った。そのために、p53ファミリー中で新規の遺伝子を探索すること、それらがp53と同様にTaxにより転写活性抑制能を受けるかについて解析を行った。Tax発現細胞ではp53のタンパク質レベルが増加し、かつ機能抑制が観察される。このことから、Taxによりp53の転写活性が抑制され、p53の分解に働くHDM2の産生がおこらなくなり、p53が蓄積すると考えた。一方、p53を外来的に発現させた場合においてもTaxを共存させるとp53の蓄積および転写活性化の抑制が観察された。同様の効果はp53以外のp73ファミリーにおいても観察されたので、Taxは似た機構により、p53ファミリーの転写活性を抑制していると考えられた。Taxによる転写活性化抑制の機構を探るために、Taxの種々の変異体を用いて解析を行い、その結果、転写のコアクチベーターであるCBPと結合できなくなる変異体においてはp53の抑制効果を示さなくなることを見い出した。すなわち、Taxは転写コアクチベーターCBP/p300と結合する結果p53の転写活性化能を抑制するように働く。P53はCBP/p300と結合し、転写活性を示す。CBPが細胞内に低いレベルで存在し、Taxと結合する事によりp53と結合しp53の機能を発揮する事ができなくなると考えると、観察されている現象を説明できる。P53とTaxはCBPに対して競争的結合阻害を示すことから、この可能性が強いと考えられた。Taxがp53の機能を抑制するとこはHTLV-1感染によるがんの発症を考える上で重要である。すなわち、HTLV-1感染による細胞の不死化に加えて、p53の機能抑制により遺伝子変化を生じやすくしている可能性が考えられる。
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