研究概要 |
サイトカインシグナルを直接核に伝達するJac-STAT伝達系は、Th1,Th2分化やB細胞の抗原応答を決定するシグナル伝達系の一つとして重要であるだけでなく、発生初期の器官形成、細胞の運動などさまざまな場で重要である。すでにIL-6による増殖、分化のいずれにもSTAT3転写因子が重要な役割をもつことを示してきたが、本研究において、1)BaFプロB細胞でのgp130シグナルによるG1期からS期への進行においてもSTAT3が重要な働きをもつこと、さらにBaFプロB細胞やHepG2細胞においてはSTAT3が直接、c-myc遺伝子プロモーター上のE2F結合領域と重なる部位に作用することで、c-myc遺伝子を転写活性化することを示した。2)Il-6/gp130シグナル下流で、STAT3活性化に関わるセリン/スレオニンキナーゼ伝達路の全容を明らかにしていくことを目指して、(i)IL-6刺激により活性化されるSTAT3キナーゼには、高濃度IL-6でのみ活性化されるMEK阻害剤感受性キナーゼ系と低濃度IL-6でも活性化される阻害剤H7に感受性のキナーゼ系があり、後者のSTAT3キナーゼ系が、Ras/MAPK活性化の観察されない細胞や生理的濃度での刺激の際にも活性化されること、(ii)gp130受容体細胞内領域のうちSTAT3ドッキング領域であるpYXXQモチーフが、H7感受性STAT3キナーゼ活性化に必要十分なモチーフであること、(iii)pYXXQ由来伝達系を介したH7感受性STAT3キナーゼ伝達系は、Erk,p38,PHCδなどのキナーゼ系とは異なること、などを示した。この新規伝達系の構成要素の同定、役割の解明は今後の課題である。4)stat3遺伝子プロモーター上に存在する低親和性STAT3結合配列に変異を導入したプロモーターノックインマウスを作製し、STAT3によるstat3遺伝子活性化が組織特異性をもつことを示した。この自己遺伝子活性化ループの役割は検討中である。
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