研究概要 |
自己免疫疾患は、自己抗原に対する免疫系のトレランスの破綻によって起こるが、その機序は未だ不明である。自己トレランスは、自己抗原と結合したリンパ球の除去や不応答によって成立するので、抗原受容体シグナル伝達の異常は自己免疫疾患につながると考えられる。実際、抗原受容体(BCR)刺激により活性化されるチロシンキナーゼLynのノックアウトマウスではB細胞反応が亢進しており、抗体産生の増加、自己抗体産生がみられ、自己免疫性腎炎等の自己免疫病を発症した。さらにLyn欠損トリB細胞株DT40を用いて、Lynは抗原受容体シグナルによるc-myc遺伝子発現誘導に抑制性に働くこと、この抑制は蛋白キナーゼC(PKC)の活性化の抑制によること、さらにこの抑制活性はLynのキナーゼ活性に非依存的であることを見出した。DT40細胞に発現しているPKCアイソザイムのうち、抗IgM抗体およびPMA刺激によってPKCα,β,μが活性化され、そのうちPKCαの活性化が野生型に比べLyn欠損DT40細胞において増強していた。従って、Lynにより活性化が抑制されているPKCアイソザイムの一つはPKCαであると思われた。次にLynとPKCの結合を免疫沈降により調べたが、LynとPKCとの明らかな結合はないと思われた。さらに、BCRシグナル伝達におけるPKC活性化の抑制に必要なLynの機能ドメインを同定するために、SH2およびSH3ドメインの点変異体を作製し、Lyn欠損DT40細胞に導入したが、どちらも野生型Lynと同程度にBCR架橋あるいはPMAによるc-myc発現誘導を抑制した。。従って、Lynによるシグナル抑制機能にはキナーゼドメインのみならずSH2あるいはSH3ドメインの機能も必要でないことが示された。このことから、LynのN末端側のユニークドメインがそのシグナル抑制機能に重要であろうと予想される。LynがどのようにPKCの活性化と同時にc-mycの発現誘導を制御しているのかを明らかにするために、c-mycプロモーターに結合し転写を誘導すると報告されているNF-κBの活性化機構を調べた。その結果、BCR刺激によりIκB-kinase(IKK)βが活性化すること、NF-κBの活性化にはSyk、Btk、PLCγ2およびB細胞特異的アダプターBASHが必要なこと、そして、種々のPKCインヒビターを用いた実験より、PKCαあるいはβが必要なことが明らかになった。従って、Syk,Btk,BASHによるPLCγ2によりPKCα/βの活性化、IKKβの活性化、そしてNF-κBの活性化が誘導されると思われた。今後、PLCγ2によるPKCα/βの活性化機構を解析し、Lynによる抑制機構を明らかにしたい。
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