申請者らは、炎症性メディエイター分子群と考えられていたケモカインというサイトカインのファミリーに属するSDF-1/PBSFをBリンパ球前駆細胞の増殖を促進する分子として同定し、その遺伝子欠損マウスの作製および解析により、この分子が造血など、発生に必須であることを見出した。更に、SDF-1/PBSFによく反応するリンパ球前駆細胞クローンのcDNAより、degenerate PCRを用いてケモカイン受容体に共通した細胞膜貫通部分を有する遺伝子をスクリーニングし、CXCL12によって、細胞内遊離カルシウムの上昇を誘導する7回膜貫通G蛋白質結合受容体CXCR4遺伝子を単離した。CXCR4遺伝子は、HIV-1の宿主側ウイルス受容体として知られるFusinのマウスの相同遺伝子であった。ケモカインは、リガンド、受容体の関係が1対1でないことが知られている。そこで、本研究では、CXCR4の生理的機能を明らかにするために、CXCR4欠損マウスを作製し、解析した。CXCR4遺伝子欠損マウスの表現型は、CXCL12欠損マウスと同様で、胎生後半から生後すぐ死亡し、胎児肝のBリンパ球の産生が著減し、骨髄球は胎児肝で著差ないが、胎児骨髄で著減し、心室中隔が欠損していた。これにより、CXCR4は、胎生期のBリンパ球の生成、胎生期の骨髄への造血細胞のホーミング、心室中隔の形成に必須であり、CXCL12とCXCR4が1対1の生理的リガンド受容体関係にあることを世界に先駆けて明らかにした。
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