研究概要 |
本研究では、ディーゼル排気微ガス(DE)あるいはディーゼル排気粒子(DEP)が精子産生数ならびに精子の質的変化、精巣に及ぼ影響ならびに妊娠に及ぼす影響を調べ以下のような結果をえた。 (1)ディーゼル排気ガス吸入によって、その中の化学成分が血液を介して精巣に運ばれ、精巣でライディッヒ細胞に傷害を及ぼし、テストステロンや黄体形成ホルモン(LH)などの合成を阻害することによって精子産生能力を低下させていた。また、ディーゼル排気ガスは精子の量的低下のみならず、質的劣化をも引き起こすことも判明した。これは、ディーゼル排気を5ヶ月間吸わせた雄マウスと正常無処置の雌マウスの交配で膣閉塞マウス等の奇形が認められたことから判明。 (2)この生殖器異常に、ディーゼル排気中のガス成分と粒子状成分のどちらが関与しているのかを明かにするために、DEPを背部皮下注射した結果、0.6mgレベルのDEP投与でも膣閉塞が生じた。これから、DEP中の化学成分が生殖器異常に関与していることが示唆された。 (3)ディーゼル排気ガス吸入による血中および精巣中性ホルモンの変化を調べるため、試料が沢山とれるラットを用いて検討した。その結果、精子の減少傾向が認められた。しかし、対象群との間に有意な差は無かった。テストステロンは血液中と精巣中とも、マウスの場合とは異なり、増加していた。黄体形成ホルモン(LH)も増加しており、マウスの場合とは幾つかの点で異なる結果が得られた。 (4)ディーゼル排気微粒子(DEP)が雌の生殖系に及ぼす影響を解析する目的で、妊婦マウスに0.006mg,0.06mg,0.6mg,6mg,60mgのDEP抽出物を8,10,12日目に背部皮下注射した。その結果、最低の0.006mgで35.7%の流産が認められ、濃度の上昇によっても同じ流産率であった。 (5)以上の検討結果から、DEPは極めて低濃度から精子産生能力低下、精子の質的劣化による次世代影響を及ぼすこと、さらには妊娠マウスに流産を起こすことも認められ、非常に深刻な影響が発現することが判明した。
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