ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-TK)遺伝子を治療遺伝子とするアデノウイルスベクターを作製した。HSV-TKの発現はαフェトプロテインの発現調節領域を用いて行った。このαフェトプロテインの調節領域はエンハンサーを2個、サイレンサーを6個つないだものを用い、短いDNA断片としただけでなく、肝癌における特異性を高めた。またこの発現調節領域の発現量は十分でないことが、これまでの検討で明らかにされてきたため、Cre-loxPの発現コントロールを導入した。また発現検討のために、LacZを発現遺伝子とするベクターも作製した。各種の培養細胞における検討に加え、ヌードマウスにおける肝癌移植モデルを用いた。皮下移植モデルに加え、脾臓より癌細胞を注入し、全身転移モデルを作製した。 Cre-loxPを用いた発現システムでは極めて高い活性が得られ、特異性もよく保たれていた。また皮下移植モデルへの直接の注入だけでなく、全身転移モデルではマウス尾静脈から注入し、全身投与の検討を行ったが、LacZの発現は、肝内の転移巣や肺内の転移巣にもみられた。こうしたことより、このアデノウイルス、αフェトプロテイン、Cre-loxPのシステムの有用性が考えられた。HSV-TKを用いたベクターでも培養細胞における高い発現が得られ、細胞障害性も優れていた。全身転移モデルにHSV-TKベクターを注入し、現在その効果を検討中であるが、全身転移モデルの作製自体の安定した作製に時間を要している。
|