肝細胞癌発生・進展の分子機構の解析による肝癌遺伝子診断への基礎的研究

2000 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 10470135
• 研究機関: 大阪大学
• 研究代表者: 笠原 彰紀 大阪大学, 医学部・附属病院, 助教授 (70214286)
• 研究分担者: 望月 圭 大阪大学, 医学部・附属病院, 医員 ; 平松 直樹 大阪大学, 医学部・附属病院, 医員 ; 佐々木 裕 大阪大学, 医学系研究科, 助教授 (70235282) ; 大川 和良 大阪大学, 医学部・附属病院, 医員
• キーワード: B型肝炎 / C型肝炎 / 肝細胞癌 / インターフェロン / 遺伝子診断

研究概要

B型肝炎ウイルスのエンハンサーIIの活性にはnt1640-1663の配列が重要であること、またこの配列にHLF、FTF、E4BP4の3種類の転写因子が結合し、その転写活性を調節すること、HLF、FTFは転写活性を増強させるがE4BP4は抑制することが明らかにされた。また、FTFは3.5-kb及び2.4/2.1-kbの両RNAの転写活性を増強し、HLFは3.5-kbのRNAのみの転写活性を増強することより、HLFはウイルス複製に関与するpregenome RNAの転写を主として増強させる因子と考えられた。
CTAPは血行動態の変化を検出しうる最も鋭敏な検査法の1つであり肝細胞癌の診断に用いられている。しかし、高分化型肝細胞癌は血行動態の変化に乏しく、必ずしもCTAPで検出できるわけではない。腹部超音波検査で検出でき、CTAPでは検出できなかった肝内結節の各種画像診断、組織学的所見を比較検討すると、55%は肝細胞癌で、単純CTで29%、MRIで24%の肝細胞癌しか検出できなかった。以上、超音波で検出できるがCTAPでは検出できない結節に肝細胞癌が存在し、これはいかなる画像診断を用いても良性結節と区別することは困難と考えられた。
C型慢性肝炎に対するインターフェロン治療例、未治療例で累積生存率を検討すると、治療後5年までは両者の生存率は同等であったが、5年以降未治療例の生存率は低率であった。さらに、著効例、再燃例では肝臓病死がほとんどみられず、生存率も未治療例・無効例に比し有意に低率であることを明らかにした。またウイルスの排除が認められなくても、ALTが持続的に正常化していれば肝細胞癌の発生は有意に低下しており、このような状態には高齢者、男性がなりやすいことを明らかにした。

研究成果

• [文献書誌] Ishida H, et al.: "Identification of multiple transcription factors, HLF, FTF,and E4BP4, controlling hepatitis B enhancer."J Virol. 74. 1241-1251 (2000)
• [文献書誌] Kasahara A, et al.: "Pretreatment viral load and response to interferon therapy for liver cirrhosis caused by hepatitis C virus."Hepatol Res. 16. 124-138 (2000)
• [文献書誌] Tanaka Y, et al.: "Probability of hepatocellular carcinoma of small hepatocellular nodules undetectable by computed tomography during arterial portography."Hepatology. 31. 890-898 (2000)
• [文献書誌] Kasahara A, et al.: "Clinical characteristics of chronic hepatitis C patients showing biochemical remission without hepatitis C virus eradication by interferon treatment."J Viral Hepatitis. 7. 343-351 (2000)
• [文献書誌] Tanaka H, et al.: "Effect of interferon therapy on the incidence of hepatocellular carcinoma and mortality of patients with chronic hepatitis C.a retrospective cohort of 738 pattents."Int J Cancer. 87. 741-749 (2000)