研究概要 |
小腸粘膜における重要な生理機構のひとつに栄養物の消化・吸収機構があげられその調節には様々な要因が関与している.小腸粘膜は増殖の盛んな臓器で増殖機構と共に定常的な細胞の死が不可欠であり,アポトーシスは重要な役割をはたしている.アポトーシスの研究は形態学的または分子生物学的観点からの研究が中心に進歩しているが,臓器の機能との関連を明確にした実験は少く,小腸粘膜の脂質の吸収能とアポトーシスの関与を明らかにして臓器の生理機能に対するアポトーシスの役割を明確にすることを実験の目的とした. 本年度はまず脂質の吸収能と消化管粘膜のアポトーシスの関係を虚血再灌流モデルで検討した.その結果,傷害をうけたラットにおいては脂質のリンパ管への移送能が低下すること,小腸粘膜においてはアポトーシスが誘導されることが判明した.当初計画していた粘膜傷害時のアポトーシス発現へのヒスタミンの関与については明確な相関は得られなかった.さらには脂質の吸収能が増加しているストレプトゾシン誘発糖尿病ラットではアポトーシスの発現がおさえられていることが判明した.以上は脂質の吸収能と小腸粘膜のアポトーシスの発現には逆相関がある可能性を示す実験結果であった.当初計画していた実験計画は実施でき,結果もほぼ予想された仮説を支持するもであった.脂質吸収とアポトーシスの関連の詳しい機構については来年度の実験で明らかにしていく予定であるが,アポトーシスの発現に食物摂取が深く関与していることを考慮すると脂質だけでなく栄養素全体の吸収についても実験を広げていく必要があるかも知れないと考えている.
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