研究概要 |
小腸は増殖の盛んな臓器でアポトーシスもその形態維持に重要な働きをしているが,小腸生理機能との関連を明確にした研究はないのが現状である。われわれは今日までに小腸の虚血再潅流障害時に脂質の吸収能が障害されることを明確にしてきた。今回は小腸粘膜の脂質吸収とアポトーシスの関与を明らかにすることを最終目標とし,臓器の生理機能に対するアポトーシスの役割を明確にした。麻酔下で,ラットの上腸間膜動脈の血流を鉗子で15分〜60分間遮断し,その後再潅流した。腸間膜リンパ管瘻を作成し,同時に十二指カテを挿入した。術後回復後に十二指腸カテよりラジオアイソトープで標識した脂質を3ml/時間の速度で投与した。脂質乳濁液を,8時間にわたって負荷し,経時的にリンパ管瘻よりリンパ液を採取した。脂質負荷後に胃腸管内液中の脂質を回収し,同時に小腸粘膜内の脂質を抽出した。アポトーシスの定量は断片化したDNAの総DNAに対する割合で評価した(% fragmented DNA=fragmented DNA/total DNA)。さらにパラフィン切片でのTUNEL法を用いてアポトーシスを形態学的に検索した。虚血再潅流後3時間,6時間後では,リンパ管へ移送される脂質の量は,投与量の50%前後と対照群に比して有意に低下していた。虚血直後から小腸粘膜のアポトーシスは有意に上昇し,再潅流後1時間を頂点として上昇した。虚血再潅流後において小腸からリンパ管に移送される脂質が低下していた。脂質の移送の低下は虚血再潅流後3時間,6時間で認められた。虚血再潅流後には小腸粘膜でアポトーシスが誘導され,このことが粘膜に障害性に作用することが推察された。しかし,粘膜のアポトーシスは再潅流後6時間には正常化していたが,脂質のリンパ管への移送障害はその後も持続しており,この点に関しては今後の検討課題である。今回の結果は小腸のアポトーシスが脂質の消化吸収という小腸の生理機構に関与する可能性を示すものであった。
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