HGFやTGFαは肝細胞に対する増殖因子として、またTGFβは増殖抑制因子として知られており、in vivoではこれらの増殖および増殖抑制因子が協調して肝再生を制御しているものと考えられている。これらの増殖因子による細胞増殖機序のうち、受容体以降のシグナル伝達機構は、Rasの活性化とそれに続くRaf/MAPK系が重要であることが主に癌細胞株を用いて明らかにされてきた。本研究では、初代培養ラット肝細胞を用いて、HGFやEGFがそれぞれの受容体チロシンリン酸化を経て、MAPK活性化からサイクリンD1発現に相加的に作用し、その結果DNA合成活性が相加的に増強されることを明らかにした。また、肝細胞の増殖抑制因子であるTGFβがサイクリンD1とサイクリンE1の間に作用し、サイクリンE1発現を抑制することでDNA合成活性を阻害することも証明した。 一方、増殖因子によって誘導されたシグナルは最終的に核に伝達され、特異的な転写因子を誘導していると考えられるが、MAPK以降の分子機構は現在のところ不明である。一方、細胞周期はサイクリン/サイクリン依存性キナーゼ(cdk)により調節され、細胞が分裂・増殖する際には種々のサイクリン/cdkの活性化が生じているが、最初に発現増強するサイクリンはG1サイクリンであるサイクリンD1である。我々は増殖因子刺激によってサイクリンD1遺伝子発現が増強することに着目し、サイクリンD1遺伝子の5'上流領域を単離、その転写調節領域を解析した。その結果、増殖因子によって誘導される新規転写因子がサイクリンD1遺伝子プロモーターに結合することを見出した。
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