研究概要 |
紀伊半島の風土病として従来から有名な筋萎縮性側索硬化症(ALS)とパーキンソン痴呆複合(PDC)の臨床疫学的実態と病因の解明に取り組んだ.とくに,本研究実施施設が存在する三重県には,最高発生頻度地域の一つである穂原地区がある.我々は穂原地区の戸別訪問と医療機関を通じての徹底した臨床疫学的調査を実施し,ALSの高頻度発生の持続,多数のPDCの存在,ALSとPDCの剖検例を確認した.併せて,分子遺伝学的手法により,ALS/PDCの遺伝素因を検討した. 1. 紀伊型ALSは持続的に高頻度発生している.1997-98年に実施した穂原地区全戸訪問調査と周辺医療施設調査により,この地区の1998年の粗有病率はALS/PDC全体で人口10万人あたり745(ALSのみで474,PDCのみで271)であり,年間発生率は1985-97年は10万人あたり12-87であった. 2. ALS多発地区にはPDCが併存し,両疾患が同一患者,同一家系に出現する.1985年以降の発症例の20例のうち,ALSかPDCの家族歴は70%に認められた.臨床病型は,純粋ALSが7例,純粋PDCは6例,他の7例はPDCにALSが合併していた. 3. PDCの初剖検例を含む5剖検例の検討により,神経病理学的にはアルツハイマー神経原線維変化(NFT)が多発し,tauopathyの1型と考えられた.この所見は,グアム型ALS/PDCと同質であった. 4. 現在までに知られている関連疾患の既知遺伝子に異常は認められなかった.ApoE遺伝子多型(アルツハイマー病),SOD1遺伝子(家族性ALS),CYP2D6遺伝子多型(パーキンソン病),タウ遺伝子(第17番染色体に連鎖する前頭側頭型痴呆;FTDP17),タウ遺伝子多型(進行性核上性麻痺)については,発症者に遺伝子変異や発症の危険因子となる遺伝子多型は認められなかった.
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