CAGトリプレットリピートの異常な伸長を伴う遺伝性神経変性疾患、特にMachado-Joseph病(MJD)における神経細胞の変性機序を解明することを目的として、正常および伸長したリピートを含むMJD1遺伝子の種々の断片をGFP発現ベクターに組み込み、COS細胞に導入してGFPとの融合蛋白として発現させ、細胞質および核内に凝集体が形成される過程を経時的に観察した。その結果、MJD1の遺伝子産物であるataxin-3中に凝集体形成に重要な役割を果たす機能ドメインを複数同定した。 まずC末端領域は細胞質内に凝集体を形成するためには必須であり、C末端の15アミノ酸を除去すると、細胞質内には凝集体が形成されなくなることを明らかにした。この細胞質内凝集体はポリグルタミン鎖(ポリQ)が存在しなくても、またリピートが正常長でも同様に形成され、tubulin抗体に認識されるtubulin系とco-localizeしていた。microtubulus organizing center(MTOC)のマーカーとされるγ-tubulinともco-localizeすることから、この細胞質内凝集体はC末端領域を介して、核に隣接するMTOCに蓄積するものと考えられた。一方、伸長したポリQでは核内に境界明瞭な封入体が形成されるが、これは細胞質内に形成される凝集体とは異なる機構によるものと想定される。 リピートのN末領域には核への移行シグナルがあり、またcoiled-coil構造をとると想定される領域が同定された。この領域は伸長したポリQによって形成される凝集体中に取り込まれること、および伸長したポリQによる核内凝集体の形成をある程度抑制すること、その結果として細胞死をもある程度抑制することを明らかにした。 ポリグルタミン病における凝集体の形成機構にはポリQ以外にも多くの因子が関与しており、今後他の原因遺伝子産物についても同様の解析が重要である。
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