研究概要 |
HERG Kチャネルは、心筋細胞の早く活性化される遅延整流K電流(Ikr)をコードする遺伝子であり、その遺伝子異常はQT延長症候群の一つのタイプの病因となる。また、ある種の薬物の標的となって後天性QT延長の原因となることが知られている。そこで、HERG Kチャネルの構造一機能異常によるQT延長の分子機序を明らかにするために研究を行った。我が国のQT延長症候群家系のうち、HERG Kチャネルに変異が見つかっているもの(LQT2)について、アフリカ・ツメガエルの卵母細胞に変異遺伝子を注入して、その発現電流より電流機能抑制の機序を検討した。三つの変異種(T474I,A614V,V630L)について発現電流を見ると、変異種単独では電流を発現せず、野生型と混合注入するとその機能を抑制するdominant negative suppressionを示した。発現電流は、正常に比べ明らかに活性化電流の低下が認められ、その抑制の強さも474,614,630の順に増強した。また、内向き整流性もこの順番で強くなり、外向き電流の減少がもたらされた。特にV630Lでは、定常状態での不活性化曲線が過分極側に変位し、不活性化の速度も増加していた。すなわち、電流低下は遺伝子の変異部位により異なり、コンダクタンスの減少に加えて、不活性化の促進がその異常発現に寄与していることを初めて明らかにした。さらに、このKチャネルの電位関知部位に当たるS4の変異・R534Cについて検討した。その結果、R534Cは単独でも抑制された電流を発現してdominant negative suppressionを示さなかった。その電流は活性化・不活性化曲線を過分極側に変位させ、活性化速度と脱活性化速度を促進した。また、内向き整流は減少する性質を示し、電位依存性の変化とともに、外向き電流を増加させる方向に働くことが判明した。これらの結果より、R534Cの電流抑制は、脱活性化の促進によるとする極めて特異な分子機序を初めて明らかにした。
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