研究概要 |
前年度の成果から、我が国のQT延長症候群家系で明らかとなったHERG Kチャネルの三つの変異(T474I,A614V,V630L)について機能異常を解析し、各々が異なる機序と程度で電流抑制が発現していることを報告した。この結果が妥当であるかを各電流の性質を組み入れた心筋活動電位のコンピューター・シミュレーションで検討した。その結果、単にDominant-negative suppressionによりコンダクタンスが低下した場合(T474I変位に相当)には活動電位の延長が比較的少なく、不活性化電位のマイナス側への偏位を生じる場合(V630L偏位の機能異常に相当)の方が遥かに活動電位延長効果が強いことを認識した。さらに、HERGの電位センサーに当たるS4部位のR534Cの変異について機能解析を行った。この変異では、電流活性化がマイナス方向にシフトしておりS4が電位センサーの役割を果たしていることを初めて明らかにした。但し、この変異では電流抑制は脱活性化の促進のみで、これだけではQT延長を来す説明にならないことを、コンピューター・シミュレーションでも確認し報告した。現在、これ以外の抑制機序についてベータサブユニット等との機能協関異常の可能性を検討中である。QT延長は女性に生じ易いところからエストロゲンの活動電位延長作用を検討し、女性ホルモンがHERGともう一つの遅延整流K電流を抑制すること、アシドージスでのHERGチャネル抑制機序が活性化の遅延・電位変化が中心で、不活性化は余り関係しないこと、などを明らかにして報告した。
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