前年度に臨床例についての検討を行い、所期の目的を達成したため、今年度はさらに臨床例を重ね、学会発表と論文作成を行った。動物実験については報告されている如く、エラスターゼ等を用いたモデルの作成に努めた。動物種をラット、ラビットなどにし、様々な工夫を行ったが、報告されているような動脈瘤を作成することができなかった。そのため、当初の目的であるMMPを標的とした動脈硬化の遺伝子治療について検討するため、類似するマウスおよびサルの移植心冠動脈硬化やラット心筋炎のモデルを用いて検討を行った。実験の目的は遺伝子治療の方法論に関するもので、HVJリポソームベクターの効果と血管壁への導入それに動脈病変の修飾についてである。その結果、移植心冠動脈硬化のモデルでもMMPの発現変化が認められることが分かった。同種および異種移植心でのMMPの発現増加を示した初めての論文である。また移植や心筋炎のモデルでは動脈管腔内へのHVJベクターの導入で血管壁への遺伝子導入が可能であること、細胞周期調節遺伝子の修飾で動脈硬化の発症が予防できることなどが分かった。またMMPを標的とした遺伝子治療の対象疾患を探索する目的で心筋疾患である、拡張型心筋症の臨床例において、MMPとTIMPの発現を検討した。その結果、心機能の低下を反映してMMP-2の発現が増加することが明らかになった。生検組織での発現と心機能を比較した初めての論文である。将来、拡張型心筋症の心不全の治療の標的としてMMPを検討することが必要であると考えられた。最終年度に当たり、研究成果を振り返ると、動物実験が所期の目標通りに行えなかった点は残念であるが、臨床例での検討、遺伝子治療に関する基礎的な検討などで十分な成果をあげることができたのではないかと考えられる。
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