研究概要 |
我々はこのプロジクトで、トロンビン/トロンビン受容体からのシグナルと病態、特に血管リモデリングの関係を明らかにすることを目的とした。明らかにしえたことは以下のことである。 1. トロンビンはトロンビン受容体のPAR-1を活性化して、MAPキナーゼカスケードの活性化を経て、NF-κBを活性化する 2. NF-κBの活性化は炎症性サイトカイン、細胞接着因子、組織因子、PAI-1などの発現を惹起する。 3. 一方、トロンビンはMAPKの活性化を経て、細胞にアポトーシスを誘導する。これはカスパーゼカスケードの活性化を伴うものである。 4. 一方、同じくトロンビンからのシグナルは核内シグナルの統合因子であるCBP/p300を活性化を起こす。これによりCBP/p300のリジンアセチルトランスフェラーゼ活性が発現して、細胞核内にはリジンアセチル化蛋白が集積した(これをhypernuclear acetylation,HNA)を命名した。 5. HNAはヒト冠状動脈硬化巣でも証明された。 以上、2年間の研究により、トロンビンはPAR-1を活性化して、これがNF-κBとCBP/p300の活性化につながり、結果、血管壁細胞の増殖、炎症、凝固促進的ベクトルの発現などが起こされるものと考えられた。このようにトロンビン/トロンビン受容体からのシグナルによる"核"の活性化が血管リモデリング/動脈硬化、血栓症などのダイナミズムに深く関わるものと考えられる。 今後、受容体のレベルとその前後、そしてシグナル伝達のどこかのステップ、核の遺伝子発現のレベルなどを標的として、血管イベントを抑制する方策の立案が重要であり、その糸口が今回のプロジエクトで一部明らかになったものと考えられる。
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