わが国のウイルス性下痢症を中心として、疫学、診断、治療、予防病態の面で研究を行った。1年を通じてみるとウイルス性下痢症は冬季を中心に見られるが、初冬はカリシウイルス(CV)の頻度が高く、晩冬から初春にかけロタウイルス(RV)が高い2峰性を示した。(1)RVの血清型は通年では1型だが、9型が多くなってきていた。9型流行は世界的な傾向であり、新興感染症といえ。るRVワクチン開発が副反応が見られたため中断されているが、わが国の小児科医にアンケートを行ったところ開発の希望の意見が多かった。ワクチンの経済効果は米'国と同じであった。RVの外来の診断としてラテックス凝集法と共に、イムノクロマト法を開発した。精度感度も良く外来で最も使いやすかった、G血清型、P遺伝子型、NSP4遺伝子型、遺伝子解析などでリアソータント・サブタイプの存在が明らかとなった。治療薬(硫酸化コロミン、カカオハスク)も検討した。(2)アデノウイルスについては型特異プライマーを用いたPCR法と制限酵素での型別する方法を組み合わせた。41型が多く、また亜型が見られた。(3)アストロウイルスはPCR用の1-8型特異プライマーを考案し、型別を可能とした。総じて1型が多かった。(4)CVはRT-PCRを用いてRVに次に極めて多いことがわかった。GIIが多かったが年によってゲノタイプが変わった。カプシド蛋白を遺伝子工学的に作り、EIAに応用した。(5)一般保育園での糞便を毎週採取し、CVが2回、アストロウイルスが2回、アデノウイルスが1回、集団で見られた。遺伝子型の解析も行った。また、地方衛生研究所の協力を得て、食品からのCVの解析を行い食品の衛生の問題点が明らかとなった。施設内での流行が単に糞口感染のみならず空気感染が示唆された。また世界的な同遺伝子型の流行も一方では見られ今後とも分子疫学の必要性が認められた。インフルエンザウイルスのワクチン、診断治療の成功が下痢症ウイルスでも望まれる。
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