急性前骨髄性白血病(APL)のall-trans retinoic acid(ATRA)療法は好成績をおさめているが、その体内動態についてはまだ不明な点が多い。また長期投与を持続すると耐性が生じてくる。そこで小児においてATRAの濃度を測定し、耐性機構の解明を試みた。 急性白血病患児に対するATRA投与の臨床効果において、われわれの結果ではAPL患児においてのみ寛解を見た。その寛解率は82.5%と既知の成人の報告と一致した。また半減期などのATRA血中動熊のパターンも成人の報告例と大差はみられなかった。ただし、寛解、非寛解にかかわらずATRA濃度の最高値にはかなりの個人差が認められた。これはATRAの代謝において個人差があるためと考えられた。 ATRAの投与にて寛解後も、化学療法は行わずATRA単独の継続投与で寛解を維持しているAPL症例において、投与開始から約21カ月後に検査を施行したところ、最高ATRA血中濃度は寛解例の初回投与時の値と比較し、低値を示さなかった。一方、APLの非寛解例においては、ATRA血中濃度が低値を呈した。ATRA治療有効例と非有効例との間の最高血中濃度の差異から、ATRA血中濃度と寛解の維持については関係があるものと考えた。合計4回の検査を施行し得た症例から、ATRAの投与を間歇的にすることでATRA血中濃度の低下を抑制し得る可能性があることが考えられた。以上の結果から、小児APLにおいてATRA血中濃度を測定することはATRA治療の効果を判定する上に有用と思われた。 また今回我々はATRA療法を行った小児APL患者においてATRA濃度およびその代謝産物である4-oxo all-trans retinoic acid(4-oxo ATRA)について測定し、治療効果との関連を検討した。対象はAPL患児4例で。その結果3例は寛解に至り、1例は寛解に至らなかった。非寛解例は寛解例と比較し、ATRAは低値で、4-oxoATRAが高値を示した。一般にATRA抵抗性の原因とし耐性細胞の出現あるいはATRAの血中濃度の低下などが考えられる。今回ATRA療法で寛解に至らなかった原因としてATRAの4-oxo ATRAへの代謝が冗進したため、ATRA濃度が上昇しなかったことが考えられた。
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