研究概要 |
1)Skn-1aの抗ヒトモノクロナール抗体を用いて,正常ヒト表皮におけるSkn-1aの発現を検討した。その結果,表皮基底層では細胞質が均質に染色され,有棘層で核内へと移行することが明らかになった。さらに,表皮の増殖亢進と異常角化を病態とする尋常性乾癬では,基底層から有棘層に分化してもSkn-1aは細胞質内にとどまり、有棘層上層で核内移行する,いわゆるdelayed nuclear translocationが観察された。 2)Skn-1aの表皮分化誘導機構、特に表皮細胞シグナル伝達と核内転写調節との関係に関する検討:Skn-1aに同定したnuclear locarization signal(NLS)と予想される領域のアミノ酸をGFPに接続した融合蛋白の発現ベクターを作成し、培養表皮細胞に導入して核移行を確認するとともに、NLS近傍のセリン・スレオニンのリン酸化・脱リン酸化が核移行に関与するか否かをsite-directed mutagenesisによりこれらアミノ酸をアラニンに置換することにより確認した。その結果、NLSと予想したアミノ酸が核移行シグナルとして機能すること、そのC末端側に位置するセリン、スレオニンのリン酸化・脱リン酸化がNLSの機能を制御していること、このリン酸化・脱リン酸化は表皮細胞の分化により変化すること、等が明らかとなった。 3)表皮性POU domain factorであるSkn-1aのcDNAおよびgenomic DNAクローニング:cDNAをクローニングし、5'-RACEにてcDNAの5'末端を決定した。さらに、Skn-1a cDNAの5'領域に相当するgenomic DNAをクローニングし、そのイントロン・エクソン構造を明らかにした。その結果、ケラチノサイトに発現する、これまで報告のないSkn-1a splice-variantの存在が明らかになり,これをSkn-1nと命名した。 4)Skn-1aのスプライスバリアントskn-1nの、in vitroおよびin vivoにおけるSkn-1nの発現をRT-PCRおよびin situ RT-PCRを用いて検討した。in vitroにおいては、培地中のCa濃度が上がるにつれ、NHEKにおけるSkn-1aおよびSkn-1n mRNA発現量は著明に低下した。Ca濃度0.03mMから0.15mMへのスイッチではSkn-1n、Skn-1aいずれも約70-80%の発現低下を示し、2.0mMではいずれも元の10%前後まで減少した。また、Oct-1の発現もCa濃度上昇に従って著明に減少し、Ca濃度0.15mMで既に0.03mMの15%まで減少した。in vivoにおける発現検討では、健常皮膚でのSkn-1a, Skn-1nのmRNAの発現がin vitro同様にRT-PCRにより確認された。In situ RT-PCR法を用い、正常ヒト表皮においてSkn-1nが表皮基底層から有棘層中層まで発現していること、有棘層上層では発現量が低下していることを明らかにした。
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