研究概要 |
カテコラミン作動薬であるメタンフェタミン(MAP)の長期乱用は、妄想型精神分裂病に非常に類似した幻覚妄想状態を引き起こすことが知られるために(Sato,Numachi,1992)、わが国では深刻な社会問題となっている。MAPの精神異常惹起作用は、MAP慢性投与時のドパミン神経系の長期持続性の増強作用ときわめて密接な関連をもち、MAPの反復投与動物で観察される逆耐性現象は、ヒトにおける精神病状態の発症と再発の動物モデルとされている(Sato,1992)。ラットでの逆耐性現象の形成には生後3週令付近を臨界期とする発達依存性が確認されているが、詳しい分子的背景は不明であった。我々は国立精神神経センター神経研究所疾病研究第3部と共同で、8日令と50日令のラットの脳を用いてRNA Arbitrarily-Primed PCR法を行い、MAP応答性に脳内発現の変化を認めたクローンの一つとしてrEphA7(Ciossek,1995)を同定した。 rEphA7の属する受容体型チロシンキナーゼは、axon guidanceに関与すると考えられている。成熟脳では海馬や小脳でrEphA7mRNAの発現を認めることから、記憶や学習への関与が推定されている。我々はMAP投与でrEphA7の転写制御に変化が生じ、神経突起がrEphA7の発現が増加した神経細胞を避け、発現減少した神経細胞に選択的に投射することで、結果として逆耐性現象に関わる異常なsynapse remodelingが起こる、との作業仮説を立てた。これまでの検討では、半定量的RT-PCR法で、ラット脳視床と新皮質で薬物投与1時間後にmRNA発現量の変化を認めた。次年度以降、免役組織化学的な解析により、rEphA7の発現が変化している細胞の種類、部位、逆耐性現象形成に伴うrEphA7及びそのligandの発現変化等に関して検討する。
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