研究概要 |
増殖因子受容体の活性発現には、リガンド依存性の内因性チロシンキナーゼの活性化が必須である。私達はキナーゼ活性を欠失した新しいヒトEphファミリー受容体,HEP(EphB6),を発見した。本受容体は内因性チロシンキナーゼ活性に必須なキナーゼ領域のコンセンサスアミノ酸配列に置換を認め、内因性キナーゼ活性を欠失しているが、様々なヒト正常細胞に発現している。抗HEP受容体モノクローナル抗体を作製し、ヒト血液細胞における発現を解析したところ、HEP受容体発現白血球はCD4陽性のTリンパ球の一部に認められるのみで、成熟顆粒球、単球、Bリンパ球やCD8陽性Tリンパ球には発現が認められなかった。マウスでは、CD4+/CD8+胸腺細胞に強い発現がみられ、CD4-/CD8一胸腺細胞でも弱い発現が確認された。しかし、CD4+またはCD8+単独陽性の成熟Tリンパ球では発現は認めず、T細胞の分化/成熟に伴う生理的な遺伝子発現調節機構の存在が示唆された。またHEP受容体細胞外領域に耐熱性アルカリフォスファターゼを結合させたキメラ蛋白をプローベとしてHEP受容体特異的リガンド発現細胞を検索したところ、未知のEphファミリー受容体リガンドの存在が示唆された。さらに、HEP受容体の生理的機能を個体レベルで解析することを目的として、当該遺伝子ノックアウトマウス作製を試み、3系統のFlマウスの誕生にも成功した。キナーゼ活性を欠く増殖因子受容体は変異型として様々な疾患の遺伝的要因として報告されきたが、キナーゼ欠損型の本受容体の生理機能の解明はチロシンキナーゼ型増殖因子受容体を介する細胞間相互作用の活性発現の分子機構にも新しい概念をもたらす可能性もある。
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