マウスでは胎生9.5日目にチロシンキナーゼ受容体であるc-KitおよびTIE2陽性の造血幹細胞が傍大動脈臓側板中胚葉領域の近傍の臍腸間膜動脈内で血管内皮細胞に接着、増殖することを明らかにした。TIE2陽性造血幹細胞は、そのリガンドであるアンジオポエチン-1(以下Angl)刺激により、インテグリンを介した細胞接着性が亢進することを見い出した。また、このTIE2受容体の活性化と細胞外マトリックスへの結合によるインテグリンの活性化シグナルは協調的に細胞死の抑制をもたらし、またTIE2の活性化単独で細胞周期の遅延化が生じることが判明した。成体の骨髄内では各種分化抗原が陰性の未分化血液細胞中、c-Kit受容体を発現する造血幹細胞分画は、TIE2陽性と陰性に分化されるが、TIE2陽性の細胞が極めて少ない。このTIE2を発現する幹細胞ほど未分化であることが判明し、さらにTIE2陽性の造血幹細胞は自ら、そのTIE2の結合因子であるアンジオポエチン-1を分泌することが明らかになった。このことはTIE2-アンジオポエチン-1のオートクラインループによる幹細胞制御機構の存在を示唆した。骨髄内でも発生初期と同様、造血幹細胞は毛細血管の内皮細胞に接着して存在することが高頻度に観察される。TIE2遺伝子のノックアウトマウスは胎生10.5日目までに致死となるが、造血幹細胞の臍腸間膜動脈の内皮細胞への接着、増殖像が観察されない。このことより造血幹細胞はその未分化性維持機構および自己複製の基盤として、血管内皮細胞の産生する細胞外マトリックスへの接着、細胞周期の遅延、細胞死の回避を、このTIE2の機能により営んでいることが明かとなった。また造血幹細胞はAnglを分泌することにより、局所で血管内皮細胞による血管網の構築を誘導することが明らかとなった。
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