研究概要 |
2型糖尿病進展に関わる、膵β細胞glucose toxicityにおける酸化ストレスの意義を明らかとすべく、2型糖尿病のモデルマウスの膵β細胞に、抗酸化酸素の一つであるglutathione peroxidase(GSHPx)を強制発現させる実験を進めている。膵β細胞への選択的発現は、GSHPxのcoding sequenceをinsulin promoterの下流に組み込み、micro injectionによりマウス胚に遺伝子導入を行うことにより行った。 既に、現在までにC57BL/Ks mouseの受精卵約200個にDNAをinjectし、十数匹の出生を見た。そのうち、3匹のFOにおいてDNAレベルでの遺伝子組み込みが確認された。あいにく、accidentにより、うち2匹が死亡し、現在、一系統においてFOよりF4までの世代が得られるに至っている。mouseの数が増えるのを待ち、膵組織染色にてGSHPxの発現を解析したところ、膵島組織における外来性GSHPx(transgene)の特異的過剰発現を発現量の差により確認しえた。加えてcompetitive RT-PCRによる単離膵島内GSHPx-mRNA量測定比較により、明らかに内因性GSHPxの数倍の外来性GSHPx(transgene)過剰発現を確認した。また、同時進行でtransgenic mouseにはC57BL/Ks db/-mouseとの交配により既にdb遺伝子を付加し、経時的に、糖負荷テストおよび免疫組織染色(Insulin,Heme Oxygenase)を行い、糖尿病発症に与える影響の検討を始めた。 しかし、糖負荷試験(腹腔内ブドウ糖負荷試験)及びinsulin免疫組織染色ではtransgeneの有無による差を認めなかった。一方、酸化ストレスを検査すべくHeme Oxygenase免疫組織染色を行ったが、これにおいてもtransgeneの有無による差を認めず、過剰発現GSHPxは酸化ストレスを除去していないと予想された。 かつて我々は、抗酸化剤基質glutathioneの前駆体たるN-acety1-L-cysteine(NAC)の投与により、膵β細胞数の保持やinsulin分泌能の保持を認め、糖尿病の進展が抑制されること(Kaneto H,Kajimoto Y,Miyagawa J,et al.:Diabetes48(12):2398-2406,1999)を認めた。このことは膵β細胞における酸化ストレス除去過程において抗酸化剤基質glutathioneがrate limitingな因子であることを示唆し、我々の作成したtransgenic mouseにおいて酸化ストレスが除去されていなかった原因として、GSHPxは過剰に存在したもののその基質であるglutathioneが量的に不足していた可能性が示唆された。 そこでtransgenic mouseに対してNACの投与を開始し、GSHPxによる酸化ストレス除去作用を検討中である。transgeneが(+)及び(-)の両方に、0.5%及び2.5%のNAC含有食餌を投与する。その後に膵組織を単離しての組織学的検討を行い、酸化ストレスの除去が認められれば糖負荷試験などを行う予定としている。
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