研究課題/領域番号 |
10470231
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
研究分野 |
代謝学
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山崎 義光 大阪大学, 医学系研究科, 助教授 (40201834)
|
研究分担者 |
松久 宗英 大阪大学, 医学部・附属病院, 医員
梶本 佳孝 大阪大学, 医学系研究科, 助手 (60301256)
|
研究期間 (年度) |
1998 – 1999
|
キーワード | 糖尿病 / 抗酸化酵素 / トランスジェニックマウス / ブドウ糖毒性 / インスリン非依存性糖尿病 / 転写因子 / stress activated protein kinase |
研究概要 |
糖尿病状態により惹起される膵β細胞glucose toxicityの本態として酸化ストレスが注目されており、実際に我々は酸化ストレスによるinsulin promotor活性の低下や、糖尿病モデルマウスに対する抗酸化剤投与での糖尿病進展抑制効果を報告してきた。そこで今回我々は、膵β細胞における酸化ストレスの役割をさらに明らかとするため、膵β細胞特異的に抗酸化酵素glutathione peroxidase (GSHPx)を過剰発現させたトランスジェニックマウスを作成し、膵β細胞特異的酸化ストレス除去による、糖尿病発症・進展への影響の検討を試みた。insulin promoterの下流にGSHPx構造遺伝子を組み込んだトランスジェニックマウスにおいて、抗GSHPx抗体による免疫組織染色にて膵島β細胞特異的に発現か認められ、competitive RT-PCRにより、膵β細胞におけるtransgene由来GSHPx-mRNAの過剰発現を確認した。このトランスジェニックマウスにC57BL/Ks db/-mouseとの交配によりdb遺伝子を付加し、糖尿病状態において生じる膵ラ氏島における酸化ストレスに対するGSHPx過剰発現の効果を調べたが、酸化ストレスを反映するHeme Oxygenase-1の発現が、トランスジェニックマウスの膵ラ氏島において抑制されておらず、過剰発現GSHPxは活性が十分ではないと考えられた。GSHPxはC末端non-coding lesionがその翻訳を修飾し、活性に関与することが知られているが、我々の付加した同領域が機能していなかった可能性があったため、このnon-coding lesionに改良を加えた上、標識蛋白を付加してC末端までの完全な翻訳を確認できるplasmidを作成し、再度トランスジェニックマウスの作成を準備中である。 同時に、酸化ストレスによる膵β細胞障害の機序を、転写因子の側面より改めて詳細に検討した。酸化ストレスによる転写因子PDX-1活性の低下がインスリン遺伝子発現低下の原因と考えられる中で、PDX-1の細胞内局在変化が酸化ストレスによるPDX-1活性低下に関与する可能性に注目した。即ち、PDX-1はある種の刺激に応答して細胞内局在が変化するが、PDX-1遺伝子はその発現において自己活性化機構を持つことより、その細胞内局在の変化はPDX-1の発現量の低下をも誘導する可能性がある。そこで、培養膵β細胞株であるHIT-T15細胞にPDX-1-GFP発現plasmidをtransfectした後、H_2O_2による酸化ストレス存在下に培養し、細胞内GFP局在を観察した。通常条件下で核内に存在したPDX-1は、酸化ストレス負荷により核外に局在が変化し、抗酸化剤を追加すると再び核内に局在が認められた。このことから、酸化ストレス負荷により、PDX-1の核外へのtranslocationが生じることが示唆された。また、広範なストレス応答に関わるSAPK/JNK1の過剰発現によりPDX-1の局在は酸化ストレス非存在下でも核外に変化し、逆にJNK1 dominant negativeでは酸化ストレス応答性の局在変化が抑制され、酸化ストレス応答性translocationにはJNK1が関与すると考えられた。さらに、GFPを標識したPDX-1のNuclear Localization Signal(NLS)部位、及び、このNLS燐酸化部位を変化させたmutation PDX-1-GFPを使用した検討により、PDX-1 NLSは酸化ストレスに応答しないと考えられた。以上の結果からPDX-1の細胞内局在は酸化ストレス応答性に変化し、その機構にはSAPK/JNK1の関与が考えられ、さらに、PDX-1に酸化ストレスやJNK1に応答するNuclear Export Signalの存在が予想された。こうした酸化ストレスによるPDX-1局在の核外への変化とそれに続くであろうPDX-1発現量の減少が、糖毒性に伴う膵β細胞機能障害の少なくとも一部を説明すると考えられた。
|