分子生物学的手法を用いた遅延型異種拒絶反応(DXR)の解析とその制御法の開発

1998 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 10470245
• 研究機関: 京都府立医科大学
• 研究代表者: 中嶋 啓雄 京都府立医科大学, 医学部, 助手 (70275212)
• 研究分担者: 岡 隆宏 京都府立医科大学, 医学部, 教授 (60079837) ; 今西 二郎 京都府立医科大学, 医学部, 教授 (40112510)
• キーワード: 異種移植 / アポトーシス / ADCC / 異種細胞傷害 / Fas / Fas Ligand / Bcl-2

研究概要

異種細胞への各種遺伝子導入とその機能解析を行い、以下の研究実績を得た。
ヒト末梢血のNK細胞をeffector、ブタ腎臓細胞(PK15 line)をtargetとして、ヒト/ブタ間のdiscordant異種細胞傷害モデルを作成し、以下の解析を行った。
1) 異種細傷害モデルの作成:培養ブタ腎臓細胞(PK15 line)にNa_2^<51>Cr_2O_7^3H-thymidineのdouble-labellingを行い、ADCCの条件下でNK細胞を作用させた。異種細胞傷害活性は、細胞膜傷害のマーカーとして^<51>Cr-releaseを、アポトーシス(核DNA傷害)のマーカーとして^3H-DNA releaseを測定した。いずれの傷害指標もE/T比依存性に上昇し、完全なモデルが作成できた。
2) PK15への各種遺伝子導入と発現量の解析:Immune privilegeの可能性を探るために、アポトーシス誘導遺伝子のFasLと抑制遺伝子のbcl-2をElectroporationにてPK15に導入し、3種類のclones(PK/FasL,PK/bcl-2,PK/FasL+bcl-2)を作成した。それぞれのFasL,Bcl-2の発現量はFlowcytometryにて解析し、control cloneの10-100倍の発現を示すclonesを獲得、維持した。
3) 発現遺伝子の機能解析:3種類の遺伝子導入細胞を用いて異種細胞傷害試験を行った。FasL発現clonesはいずれの細胞傷害指標も抑制され、特に核DNA傷害は30-50%近く抑制された。一方、bcl-2単独の発現(PK/bcl-2)は、いずれの細胞傷害指標にも影響を与えなかった。
5) 発現遺伝子の相加・相乗効果の検討:(PK/FasL+bcl-2)cloneは(PK/FasL)cloneと比較して、核DNA傷害において10-20%近い抑制活性を示したが、細胞膜傷害には影響を与えなかった。以上の結果より、target細胞にFasL分子を発現させることで異種細胞傷害活性を抑制できることが明らかとなった。また、Bcl-2分子は核DNA傷害において、FasL分子と相加作用を発揮することが判明した。

研究成果

• [文献書誌] Hiroo Nakajima,et al.: "Perforin/Granzymes Pathway Operates in Xenogeneic Human Antipig Cytotoxicity" Transplantation Proceedings. Vol,30. 76-78 (1998)
• [文献書誌] I.Fujiwara,H.Nakajima: "The Molecular Mechanism of Apoptosis Induced by Xenogeneic Cytotoxicity" Xenotransplantation. Vol.5. 50-56 (1998)
• [文献書誌] Bonfocco Emanuela,et al.: "Inducible Non-Lymphoid Expression of Fas-Ligand is Responsible for Superantigen-Induced Peripheral Deletion of T Cells." Immunity. Vol,9. 711-720 (1998)
• [文献書誌] I.Fujiwara,H,Nakajima: "Soluble Complement Receptor Type I and Antithrombin-3 Combination Therapy Prolongs Xenograft Survival." Transplantation Proceedings. Vol,29. 935-937 (1997)
• [文献書誌] 中嶋啓雄,岡 隆宏: "臓器移植とアポトーシス" 「外科治療」,総説. Vol,76. 304-310 (1997)
• [文献書誌] 中嶋啓雄,岡隆宏: "異種移植の現状と将来" 「外科治療」総説. Vol,77. 585-594 (1997)
• [文献書誌] Henkart PA,H.Nakajima: "Techniques in Apoptosis;A User's Guide" T.G.Cotter and S.J.Martin edited, 19 (1996)
• [文献書誌] 中嶋啓雄,岡隆宏: "腎移植における免疫抑制療法" 高橋公太編集(日本医学館), 15 (1998)